【番外編】あなたに送る小さな演奏会(エルナ×クラウス。エルナ視点) ページ24
「……よいしょ、と……これで、ばっちりなの」
陽炎パレスの奥にある、薄暗い物置部屋。
備品の入った段ボールを床に置き、手をはたいて息をつく。
エルナの小さな身体に取って、工具や壊れた時計やらが無造作に放り込まれた段ボール三箱を運ぶのは、かなりの重労働だった。
んん、と息を漏らしながら腕を精一杯上げて伸びをする。
埃の匂いが鼻について、少し顔をしかめた。
入り慣れない物置部屋を見回してみる。
いかにも適当に積まれたガラクタの山が、今にも崩れそうだ。
先代のチーム、焔の持ち物だろう。
しかし、表面的な汚れは払われている。
誰かが掃除に入っているのだろう。
その“誰か”は、簡単に思い当たった。
現在陽炎パレスを所有しているスパイチーム、灯のボス。
彼しかいない。
彼は、焔のことを家族のように愛していると話していた。
先代のチームの影を強く感じるこの部屋に、たびたび訪れていてもおかしくは無い。
クラウスの心情に想いを巡らせると、少し複雑な気分になってしまう。
ふと、物置部屋の入り口付近、つまりはエルナの隣に置いてあったグランドピアノに触れてみる。
楽譜台には、リボンで綴られた何枚かの楽譜が立て掛けられていた。
かなり使い古している。
直に空気に晒されていたためか、白鍵が少しばかり黄ばんでいた。
鍵盤に、右手の人差し指を添える。
ピアノの屋根が開いていないためあまり反響はしないが、優しい音色が鳴り響いた。
貴族の家柄に生まれたエルナは親の意向で楽器の稽古をつけられていたため、簡単な曲ならすぐに奏でることが出来る。
鍵盤をいじっている内に、いくつかの楽曲の音色が指先から拙くも確かにこぼれ落ちていった。
少し興奮する。
普段使っていたのがオルガンだったので、グランドピアノに触れるのは初めてだ。
鍵盤が指を押し返す力が、オルガンよりも強い。
気づけば、左手も右手が奏でる音色に合わせて伴奏を奏でていた。
どきどきと、沸き上がる鼓動を押さえきれない。
音楽が、自分の手から奏でられるという経験は、思いの外楽しい物なのだ。
切れ切れだった音は、やがて繋がりしっかりとした演奏になる。
シンプルなト長調で彩られたケルト音楽。
情緒豊かで優しい曲調は、エルナのお気に入りだ。
続きの譜面が思い出せなくなり演奏が途切れると、後ろから一人分の拍手が聞こえてきた。
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8人がお気に入り
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亜月 - カレンさん» 読みましたよーーー!!!最後!!最後の挿絵、、、、 (2021年12月9日 11時) (レス) id: 1f8ff7c796 (このIDを非表示/違反報告)
カレン - pixivから飛んできました!めちゃくちゃ尊いです... ちなみに亜月さん6巻読みました...? (2021年11月24日 21時) (レス) id: aacf8bdcb4 (このIDを非表示/違反報告)
亜月 - おぉー!ありがとございます、、グレーテ×ティア読んできました! (2021年5月16日 15時) (レス) id: ae5d374ab3 (このIDを非表示/違反報告)
あも - 亜月さん» エルナとクラウス……!!ほんとうにかわいいです、なんかモチベになりました(あ) (2021年5月15日 15時) (レス) id: e2902b121b (このIDを非表示/違反報告)
亜月 - 遥世さん» あぁぁぁありがとう、、そうなんですよ、ジビアさんイケメンに書けるよう頑張りました! (2021年5月2日 21時) (レス) id: 9200735183 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜月 | 作成日時:2021年3月6日 20時