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10歳の記憶は大したもので、
昔住んでいた家までの行き方もしっかりと覚えていた。
建物はそのままあったけど、今は誰も住んでいないようだ。
そんな家を前にして感慨深くなる自分がいた。
(フッ。過去を捨てた俺が、なに生意気に懐かしんでんだよ。)
そして...
俺がここに来た一番の理由は、
最後に田中のおばさんに会っておきたかったから。
(確かここ...あ、あった!)
【田中】という表札を見つける。
(おばさん、元気かな。)
.
.
.
でも...会いに来るのが遅すぎた。
おばさんはもうこの世にはいなかった。
数年前に病気で他界したことを、
家の中から出て来た親族の人に聞き、お墓の場所も教えてもらった。
.
おばさんのお墓に、摘んできた花を供え手を合わせた。
「おばさん、久しぶり。覚えてる?紫耀だよ。
ごめんな、もっと早くに会いに来れてたら...
もしおばさんが生きてて今の俺見たら、何ていうかな。」
自然とおばさんと過ごした記憶が蘇ってくる。
当時くれた食べ物とか、交わした言葉とか...
「そうだ...おばさんの予想外れたよ。
モテモテだなんてそんな良い青春過ごせなかったし、お嫁さん選び...
つか、結婚なんて.....俺には一生無理かも...」
今までずっと我慢していたものが、
一気に”涕”として目から溢れ出てきた...
「っっ...ごめんな...こんな情けない姿見せて....
明日さ、俺がずっとずっと好きだった人が...結婚しちゃうんだ...
だから今日だけは....こんな俺でも許して欲しい...」
辺りはいつの間にか夕暮れ時になっていて、
ヒグラシの鳴き声しか聞こえない静かな場所で、
俺は一人、
おばさんに甘えて、
思いっきり泣いた。
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作者名:秋風 | 作成日時:2020年7月9日 3時