【立海】青春、晴天なり。 2 【幸村精市】

記、神の子も人の子。 ページ36

貴「……えーと」
幸「………」

なんか言って！？
さっきから半ば睨み合いみたいになってるんだけど！！？
というかその、こいつの目ってほら…なんでも見透かしてしまいそうですごく怖いというか…。
あ、いや、決してやましいことなんてこれっぽっちもないんだけれどもね？
だけどこうなんというかさあ、ほら、わかるでしょ？

幸「……A」

そんなことを考えながらも目を泳がせまくっていると、不意に、ぽふ、と髪に精市の手が。

幸「他の男のこと、見ないで」
貴「…え」

右から左へ華麗に流れたけど今、今、なんかすごいこと言われた気がする。
うん、プリーズ、ワンモア？

幸「俺だけ、見ててよ…」

わふっ！？
なんて間抜けな声が喉元から飛び出しかけたがなんとか引き止めて、精市のその綺麗なご尊顔を穴が空くほど見つめる。
…赤い頬。
僅かに潤む瞳は恐らく羞恥のためで。
その瞳が、遠慮がちに見つめているのは。
………私だ。
ぶわぁ、っと、身体中全ての熱が顔に集中した瞬間、私の身体に微かな浮遊感。
気付くと精市の腕の中にいた。

幸「…ほんとさ、Aといるとつくづく自分が情けないよ」
貴「え」

なんか、私「え」と「と」しか言ってない気がする。

幸「Aといると、つくづく自分が小さい男だなって、醜いなって」

息が詰まる。
精市、あんたはそれを、どんな意志を持って言っているの？
この、あんたの胸の早鐘を打つ鼓動の意味は。
そう問う前に、精市の声が乾いた笑いと共に告げた。

幸「嫌になるよね。そう思わないかい？ 信じてるのに、好きなのに、そのはずなのに、ちょっとでもAの目が他に向くと不安で不安で、イライラしてさ」

……それって。

貴「あ、わ」

泡ってなんだ。
…なんて頭の片隅で考えているのは、私の中にあまりにも大きくてキラキラした感情が膨らんで、今にも爆発しそうだから。
あまりに、夢のようで、受け止められないから。
…そのキラキラしたものにあえて名前をつけるというなら……。

貴「ごめん精市。私…めっちゃ幸せ」
幸「…え？」

その感情は私だけだと思ってた。
なぜならあんたはいつも飄々として、悠然としてて。
それほど深く思ってくれてるって自惚れてみたら、天にも昇るほど幸せで。
なにより、

貴「神の子も人の子だなって、あんたが近く感じたよ」

…なにそれ、と、苦笑いするあんたが愛しい。
赤らめた顔を見せまいと、力を少し強めて私を引き寄せるあんたが愛しい。
………言わないけど。

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