記、おかえし。 ページ24
洗濯を終えた頃には、夕日はもう頼りなく、山の辺りをふわふわと漂っていた。
赤い最後の光が、長く影を踊らせ、目に染みる。
貴「おつかれ…さん」
今日は珍しく、皆が急ぎ足になり、あっという間に帰路は精市とふたり。
秋小口。
肌寒くなってくる季節。
幸「うん、お疲れ様。…冷えてきたね、もう時期紅葉が綺麗になるよ」
つい、と、虚空を切った精市の視線につられて、私も空を振り仰いだ。
つるべ落とし。
太陽はもう完全に姿を隠し、赤い光の名残だけが、うっすらと残っている。
…私は、心に決めていたことを実行に移すべく、歩みを止め、息を静かに吸い込んだ。
貴「…精市」
呼べば、すぐに返る言葉。
数歩先で立ち止まり、不思議そうにこちらを見つめる精市。
貴「…あ、の……」
その目を見てしまえばとらわれる。
そう、わかっているから。
今日だけは見てなるものかと視線を逸らし続ける。
さあ、あとは踏み出すだけ…
幸「…A？ どうしたんだい？ 気分が悪いとか…？」
心配そうな表情をした精市の、その声色がやにわに曇り始める。
幸「…別れ話かい？」
ちょっと待てどうしてそうなった。
なんとかここまで冷静さを保っていた、或いは保とうとしていた私の努力は砕け散った。
…早い話が、ちょっと待て待て待てなにこの超展開精市さんそんな悲しい顔して声して歩み寄って来ないで心臓に悪いから！！！
…ってこと。
貴「ちょ、待っ…」
一歩。
後ろに下がる。
幸「どうして、逃げるんだい？」
悲しそうな声は私を追いかけてくる。
二歩、距離を詰められた。
よからぬ誤解は膨らんでいるようで。
幸「俺のこと、嫌いになったのかい…？」
貴「や、だからその…」
幸「…あんなこと、したから？」
フリーズ。
完全に思考停止。
…そして私は、奴の目を、見てしまう。
幸「キスなんて、したから…？」
その場に幻惑された私は、動けない。
…だけど、その代わり、精市の瞳の奥、奴の真意を探り出した。
…なんだ、余裕綽々に見えたけど、それですっごい腹立ってたけど、案外そうでもなかったんだな。
なんて、変な余裕ができてしまって。
貴「違う。そう…じゃない、よ」
なんだか幼く見える、今にも泣き出しそうな「恋人」に。
貴「おかえし」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 528人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「テニスの王子様」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かるぴん(プロフ) - とても面白くて一気読みしました！ (2021年3月15日 2時) (
レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - デカ奈さん» わああありがとうございます！！ 作者の都合で更新ガタ落ちしてすみません！！ 幸村君！ もっとがんばって！！！( (2015年3月19日 7時) (レス) id: f85a5f48fd (このIDを非表示/違反報告)
デカ奈(プロフ) - ゆっきーに……ゆっきーに……！ああ…！！←面白すぎて二度読みしました。そしてなんと言ってもゆっきーが……ああ…！！←1日過ぎちゃいましたけど、誕生日おめでとう！椿さんこれからも楽しみにしてます！ (2015年3月6日 3時) (レス) id: 6e91fdd91f (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - ミッキーさん» 今後も幸村君にベタベタに甘やかされていくのではないかと…思います(私の精神がもつかぎり) 今後もよろしくお願いします！ (2015年2月15日 11時) (レス) id: f85a5f48fd (このIDを非表示/違反報告)
ミッキー - 幸村君に愛され過ぎて夢主が羨ましすぎます！あぁ入れ替わりたぃ (2015年2月1日 16時) (レス) id: 60f2124a2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：椿 | 作成日時：2014年11月17日 19時
