息を吸う ページ42
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ひゅっと喉が鳴る。
ジフナの作業室を出て、一目散に家に帰った。
ベッドに腰掛けると、うまく息ができていなかったことに、そこで初めて気付く。
「…び、っくりした」
顔が熱い。
ドクドクと波打つ心臓は、いつもより早い。
「いや……ありえないでしょ」
ありえない。
私はスタッフであって、
事務所に所属するアイドルたちは言わば商品。
ましてや、彼らはこれからどんどん成長していく。
ファンにも愛されて、大きなグループになっていくだろう。
スタッフとの恋愛、なんて、絶対にありえないのだ。
それなのに、なぜ。
私の心臓はこんなに心臓が音を立てているのか。
どうして、こんなにも身体が熱くなるのか。
あぁ、知ってた。
違和感はいつのまにか確信に変わり、
見ないふりをしながら、過ごしていくうち
視線を感じるたび、少しくすぐったい気持ちがした。
声を聞くたび、身体がしびれるような感覚を覚えた。
近くにいると、穏やかな気持ちになれた。
ふ、と馬鹿馬鹿しくて笑いが出る。
そうだ、一番ありえないのは、この私自身。
あのとき、一瞬、
嬉しい、と思ってしまったなんて。
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作者名:sani | 作成日時:2018年3月26日 16時