WZ side:その感情の名前 ページ29
【ウジ目線】
…
昨日のジスヒョンの言葉が何度も頭をぐるぐる回る。
俺が?…恋だって?
誰にっていうんだ。
わけがわからない。
練習室に行くと、Aヌナの姿が目に入る。
なんとなく、話しかけづらくて話さないでいたら、ヌナのほうから話しかけてきた。
近づいてきているのは気配で分かったのだけど、声をかけられた瞬間に心臓がドキリとはねた。
ジスヒョンの言葉がまた頭を占めて、ヌナのほうを見ることができない。
いや、まさか…ありえないよ。
その後、2人きりの作業室で、何かあったのか聞かれ思わず声が上ずる。
その声に大笑いするヌナ。
その日初めてヌナをまっすぐに見た。
笑っているヌナを見ていたら、なんだか肩の力がすとんと抜けてしまった。
思い詰めてた自分が馬鹿みたいだ。
いささか気持ちが楽になって、作業に打ち込む。
曲のチェックをしてもらっている間、集中しているヌナをじっと観察してみた。
思ったよりも細い肩、すっと伸びた背筋、どこか強さを感じる瞳、形の整った耳。
いつかのコソコソと耳打ちをするシンさんの姿を思い出して、なぜか無性に腹が立ってきた。
チクリと心臓が痛くて、目の前の頰をつねってみる。
「え、ちょ、なに?…いたいいたい!」
こちらを見るヌナに、いつのまにか痛みは消えていた。
謝るヌナを見ながら、ふいに疑問が浮かぶ。
いつか誰かに聞かれて、ヌナは高校生のときに韓国に来たと答えていたな。
俺だって釜山からソウルにやってきて、方言の壁に苦しんだ。
言葉すら違う場所からやってきたこの人はどれだけ苦しんだんだろう。
WZ「帰りたくは、なかったですか」
「帰りたかったよ、毎日。でも、そのうち楽しいことのほうが増えて、そんなこと思わなくなってたな」
そういって優しい顔をするヌナが、韓国にいて、ここにいてくれて、本当によかったと心から思った。
そういう感情の名前は、
まだよく分からないままだけど。
暖かくなった胸の辺りを抑えながら、今日ももう少し頑張ろう、と思えた。
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作者名:sani | 作成日時:2018年3月26日 16時