痛み ページ28
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作業は順調。
「よし、一回聴いてみようか」
音楽だけが響く部屋。
本当に飲み込みが早いっていうか…最近はアドバイスすることも、口出しすることも減ってきたなと思う。
気になるところをチェックしていくけど、チェックがつくところは確実に減っていて。
良いものをつくるから、より良いものになるよう、こちらも真剣になる。
集中する。
音楽の中に入り込んで、深い思考の海に落ちていくような錯覚。
ふいに右頬に痛みを感じて、現実に引き戻される。
「え、ちょ、なに?」
ジフナが私の頰をつねっていた。
まさか、このあいだの仕返し?!
「ちょっと、いたいいたい!」
WZ「あ、すみません」
パッと手を離すジフナ。
「なに!この間私がつねったから?仕返しなの?」
鈍い痛みを伴う頰をさすりながら問う。
WZ「うーん、まぁそんなとこです」
「ひどいなぁ。私もうちょっと優しかったでしょ?」
WZ「いや、なんか、痛くて」
「えぇ〜?そうだったの?それはごめんね」
WZ「ヌナは…」
「ん?」
WZ「韓国に来て…帰りたくは、なかったですか」
突然の質問に驚きながらも、昔のことを思い出すと、鮮明にあの日々のことが浮かんでくる。
「帰りたかったよ、毎日。でも、そのうち楽しいことのほうが増えて、そんなこと思わなくなってたな」
WZ「…よかったです」
「ん?うん、そうだね?」
ジフナの言う"よかった"の真意が掴めなくて、首をかしげた。
WZ「で、曲はどうですか?」
「ああ、えっとね…」
自分が中断させたくせに…と若干の不満を覚えながら、話を続けていくうちに、いつのまにか疑問に思ったことすら忘れていた。
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作者名:sani | 作成日時:2018年3月26日 16時