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晴香の鬱陶しい質問の雨を躱しながら、私はそのまま授業を受ける。
今の所、あの幽霊とは出会っていない。休み時間を使って図書室にも赴いてみたが、学ラン姿の幽霊はいなかった。廊下や他の教室も覗いてはみたが、やはりいない。
しかし、気配は感じるのだ。胸の奥に誰かがずん、と座っているような重苦しい感じ。昔からよく感じていた、近くに幽霊がいるという兆候。この気配がする限り、一瞬足りとも気が抜けないのだ。
何処に隠れているのかは知らないが、何処にいようが私は無視を決め込む。絶対に気づいてやるものか。
誰の目にも分かるくらいにピリピリとした雰囲気を纏う私に、流石に騒ぎまくっていた周囲のクラスメイトは密かに怯えていた。
晴香さえ徐々に私に質問することはなくなっていった。すまない晴香。だが決して君のことを嫌っている訳ではないのだ。
「……脅かしてこようなら容赦しない」
机上で手を組み、何もない空間に向かって睨みつける私。
遠くで響く長い雨の音を聞きながら、授業は五時間目に突入する。
◆
「出てこなかった、か」
ため息を零し、項垂れながら階段を降りる。
そう、結局幽霊は出てこなかった。授業はいつも通りに六時間で終わり、その後図書室や他クラスの教室など見て回ったが、あの幽霊は何処にもいなかった。
別に出てこなくて安堵しているのだが、かといってここまで一つも姿を見せないというのも不気味なものだ。もしかして私の家に潜んでいるのだろうか。
だが、まだ胸が痛い。
雨音のする玄関に来る。部活はサボってしまった。どうせ人気のない文化部だし、許してくれるだろう。
靴を履き替え、外に出る。相変わらず淀んだ空が広がり、まだ雨が降り続いていた。毎度のようにため息を漏らして、近くの傘立てに向かう。色とりどりな傘の中から、藍色の柄を探す。
「……ん」
傘がない。
ここに差したはずの藍色の傘が忽然と消えていた。数ある傘を掻き分けて探すが、見つからない。
まずいな、と頭を掻いた。誰かに間違えられて持っていかれてしまったか。幸い雨はまだ弱い方だから、走って帰れば____。
「、」
ふと外に目を向けたその瞬間、一瞬、息をするのを忘れてしまう。
灰色の雨の中に、見たことのあるような学ラン姿の背中があったのだ。
それが、一体何を思ったのか、振り向いた。
青色の目。
「_____っ!」
その青年と目が合った瞬間、私は我をも忘れて走り出していた。
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燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
燕(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:燕 | 作成日時:2015年7月17日 1時