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「ん、おい。飯食わねぇのか?」

 翌朝早々から沈んだ気持ちで外に出ようとすると、不意に背後から声をかけられた。振り向くと、サンドイッチを乗せた皿を持った男が、見慣れたカウンターの奥から上半身を乗り出していた。
 白髪混じりの茶髪に、無精髭が目立つその男は、私が昔からお世話になっている存在だった。
 私は男に向かって力なく笑って見せて、

「今日は食欲がないから……それ今日の夕飯に加えておいてよ」

 自分でも驚くくらい掠れていた声に、男は慌てた様子でこちらに近寄ってきた。

「おいおい、どーしたんだ。熱でもあんのか? Aはいっつも無理すんだからよ」

 男は私の顔を覗き込んで、額にその無骨な手を当ててくる。大きな手に、こちらの目まで塞がれる始末だ。
 気遣いは嬉しいが、精神的に参っているだけで身体的には恐らく大丈夫だ。この状態で学校でぶっ倒れでもしたらきっと説教されるのだろうけど。
 私は苦笑いを浮かべながら、そっと額に置かれた手を退かす。

「大丈夫だって叔父さん。何でもないよ」

 無理矢理笑顔を浮かべて、どうにかして叔父である"雨宮悠太郎"の拘束から逃れようとする。
 悠太郎は不服そうな表情を浮かべたが、渋々と体を離した。それを確認し、私は背を向けて傘立てから藍色の傘を引き抜く。

 顔だけ振り向いて、悠太郎に手を振る。
 悠太郎は困った笑みだけを浮かべて、手を振り返した。

 傘を開いて、外に出る。背後でドアベルが鳴り、すぐに傘の中に雨音が響き始める。反響するそれを聞きながら、歩き慣れた通学路を歩く。
 また幽霊と出くわすかもしれないという心配や緊張が胸の中を覆うが、もうこればかりは避けられそうにない。出会ったら無視を決め込めばいいだけの話なのだ。
 あの幽霊は、生きている人間に対して危害を加える様子はない。あの図書室の時だって、幽霊は私の存在に気づいていたはずだ。しかし何もしなかった。
 つまり何もしない限り、危険はないということ。触らぬ神に祟りなし、である。



「ね、昨日どうしたの?!
まるで死んだ魚のような顔してさ、返事もしないしさ」

「な、何でもないってば……」

 私は気圧されていた。
 学校に到着し教室に入った瞬間、早速晴香に絡まれたのである。昨日の私の態度について聞きたかったようだが、今の私にはそんな余裕はない。何故かって、今にもあの幽霊が側に出てきそうで恐ろしいのだ。
 というかあの気配をビンビン感じていた。

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設定タグ:オリジナル , 幽霊 , 学生   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2015年7月17日 1時

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