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「幽霊って、水面に映る、の?」
水面を見つめながら、私は半信半疑で声を漏らす。
雨地は水面から目を離し、二人が去って行った方向を見つめながら答えた。
「そこんとこは分からん。
ただ単に、何かの気配を感じて逃げただけかもしれない。水面に映っているように見えるのは実はあんただけ、かもな」
「それもそう、か」
そう言われてみると、確かにそうだと頷けるような気がする。
もしも霊感を持たない普通の一般人でも、水面に映る幽霊が見えることが可能だったら、雨地の記憶探しも少しくらい楽だと考えたのだが。
仮に見えたとして、その人は幽霊を前にして正気を保っていられるか。恐らく無理だ。
小さな波紋が次々に生まれる水面を見つめながら、深く考え込む私に、不意に声が掛けられた。
「それより、こいつをどうにかしようぜ」
その言葉に、私は振り向いた。
壁にもたれてピクリとも動かない男の顔を、雨地は覗き込んでいた。頰に出来た傷を見ているようだった。
慌てて男の傍に寄る。どうやら気絶しているらしい男の制服はうちの高校のもの。そういえば、先ほどの二人組もそれらしい制服だった。
「さっきの一発で気絶したのか...弱っちぃな。
頰と腹くらいか? 吐血はしてねぇから心配はないだろ」
「でも……どうしよう。起こす?」
「気絶してるだけだからな。少し小突けばいい」
簡単そうに言う雨地の言葉に、誰がやると思って、と私は唇を尖らせる。
だが、流石にこのままにしておく訳にはいかないので、勇気を振り絞り、傷ついてない頰を少し強めに数回叩く。
ややあって、男の睫毛が動いた。驚いた私は手を引っ込め、様子を見守る。
「……ぐ……」
苦悶の声を漏らした男の瞼が、ゆっくりと開いた。
「あ……気が、ついた?」
「……誰だ、てめ...」
「その、私は秋霖高校の……」
上手く言葉が紡げなくて、しどろもどろになる私。それを他所に、目の前の男は壁に手をついて、よろよろと立ち上がろうとしていた。
「って、大丈夫なの!?」
男の体を支えようと手を伸ばした時、男は私の手を払い退けた。
手を払われて目を丸くする私を尻目にして、男は腹部を痛そうに片手で覆いながら、
「うっせ、関係ねーだろブス!」
___そう、罵声を上げ去っていった。
「ぶ、す……」
言われた言葉が未だに受け止められず、呆然と立ち尽くす私。
後ろで眺めていた雨地は肩を竦めて、私に慰めの言葉を送ったのだった。
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燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
燕(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:燕 | 作成日時:2015年7月17日 1時