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一人部屋を出た雨地は、階段を下りて先ほどの場所へと足を進める。途中で話し声___Aの叔父らしき声と、男の声だ___どうやら、Aの叔父は誰かと話をしているようだった。辿り着いて覗いてみると、Aの叔父と一人の男が楽しげに会話を弾ませていた。男の手元にはグラスがあり、ここの客として来たのだろう。
二人の傍に立ってみる。期待はしていなかったが、どちらも自分の存在には気づかないようだ。
雨地はAの叔父という男を見た。白髪混じりの茶髪に、彫りの深い顔に刻まれた皺。外見からして恐らく40代くらいだろう。叔父らしく、纏う雰囲気はAと何となく似ている。
叔父の家が帰る家。
つまり、Aにはなんらかの事情でここに両親がいない。出張やらでここにはいないとしても、それなら気にせずに言えるはずだ。
きっと、言葉にしたくない事実____両親はとうの昔に亡くなっている、ということ。何となく察することができる。
雨地はもう一度Aの叔父の顔を見る。
この店の事もそうだが、この男に関しても、まるで古い知己を忘れてしまったようで、それが堪らなくもどかしい。
玄関のドアに向かい、身体から力を抜いて目を閉じ、通り抜ける。
外に出た雨地は、相変わらず雨が降り続ける夜の空間の中へ歩き出す。断続的に続く雨音を聞きながら、雨地は帰る家が出来た事に少しの喜びを見出していたことに気づくのであった。
◆
雨地が出かけて行って大分経った頃、私は夕食を食べに部屋を出ていた。
幽霊の気配がしないことから、雨地はまだ帰ってきていないらしい。
叔父の悠太郎は上にいた時の間接客をしていたらしく、食器の片付けをしていた。グラスを丁寧に拭いている悠太郎と目が合うと、つい困った笑みを浮かべてしまう。
悠太郎も返すように笑って見せて、
「全く、何を隠しているんだ?」
そう問う悠太郎に、私は戯けたように手を振り、
「別に?」
とだけ言っておく。
悠太郎も追求するつもりはないらしく、それ以上言ってくることはなかった。
夕食のスパゲティを頬張る私を、悠太郎はじっと見つめていた。その目はまるで懐かしいものを見ているかのようだ。
多少気にしつつ食べていると、叔父はふと呟いた。
「Aはさ、幽霊って信じるか?」
その言葉に、私は思わず叔父を見上げる。
悠太郎は苦笑して、手を振った。
「いや、やっぱり気にすんな」
心の何処かで、何かが引っかかった。
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燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
燕(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:燕 | 作成日時:2015年7月17日 1時