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いきなり雨地が問いかけてきたので、私は雨地の方を向いて普通に答える。
「そうだけど、言ってなかった?」
「表札から苗字が雨宮までは分かってたがな。まともに自己紹介もしてなかっただろう」
「あ、そっか」
忘れてた、とあっけらかんに笑って見せると、横から射抜くような視線を浴びている事に気付き、振り向く。それに雨地も釣られた。
そこには、カップを拭く手を止め、こちらを凝視する悠太郎。微かに、え、え、と戸惑い気味に漏らす声が聞こえる。
隣から、雨地の「やっちまった」という声がしたその瞬間、即座にまずい事をしたと察した私は、誤魔化すように下手くそに笑った。
「あ、いや、その! あれだよ、一人芝居!
友達が聞きたいって言うから、ちょっと練習してたんだー……って」
これ程までに苦しすぎる言い訳があっただろうか。私だって分かっている。悠太郎の微妙な表情から伺い知れる。だが雨地、お前までもがそんな哀れんだような目で見つめるんじゃない。大体お前のせいだと指を突きつけて言いたい。
どうにかここから逃げる方法を思案し始めたその時、まだ湯気の立つホットミルクが目に入った。カップを手に取り、一切の迷いなく火傷を覚悟しつつそれを勢いよく飲み干す。あ、と悠太郎が気の抜けたような声を出した。案の定熱い。
ちりちりと痛みを訴える舌を我慢して、私はすぐさま立ち上がり早足でここから立ち去る。
階段を上る音で我に帰った雨地が、慌てて私を追いかける。
扉の閉まる音で、静寂は訪れた。
流していたジャズミュージックが丁度よく終わり、残ったのは遠くから聞こえる微かな雨音のみとなった。
「……一人芝居か。だな」
自らを納得させるように、悠太郎は一人呟き、残されたカップを片付ける。
不意にドアベルが鳴り、客が入ってくる。悠太郎は気持ちを切り替え、いつも通りに接した。
だが何故だろう。
A以外に、もう一つ気配があったような。
◆
「____あー、焦ったぁ……」
ドアの前で胸をなでおろす私。
少々強引に切り抜けてしまったが、悠太郎なら問い詰めることなんかせず彼になりに察してくれるだろう。そうなることを祈るしかない。
ふと前を見ると、雨地がポケットに手を突っ込んだまま周りを見回している。無我夢中だったために私の部屋に入ったのだ。
少し後悔する中、雨地は呟く。
「あんたの叔父、俺を知っていると思うか?」
部屋の事かと思いきや、どうやら違ったようだ。
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燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
燕(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:燕 | 作成日時:2015年7月17日 1時