検索窓
今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:13,316 hit

 13 ページ25

雨音が遠くなった気がした。薄暗さが色濃くなり、表とは違う不気味な雰囲気が漂い始める。
 耳をすませながら、少しずつ歩を進めていく。入った瞬間、聞こえていた怒声が突然静かになったからだ。侵入してきた自分達に気付き、息を潜め、待ち伏せしていてもおかしくはない。
 私の目の前で、雨地が先頭に立って歩いているが、雨地は幽霊だ。霊感がある私だからこそ視える訳で、持たない人は視ることも出来ず、触ることも出来ない。また雨地自ら接触も不可能だ。霊感がなければ、幽霊の存在は分からない。そうなると、実質私一人でこの路地裏を進んでいる事になる。

 本当は一人じゃない___そうやって自分自身を安心させようと試みてはいるが、本心はかなり不安であることは隠す。

「静か、になったね」
「……待っていた方が良かったか?」

 前方から目を離さぬまま、私に問うてくる雨地。
 少し馬鹿にされたような気がして、私は強がって見せた。

「……幽霊だけじゃ、何も出来ないでしょう」
「それもそうだ」

 滴る雨滴の音に混じった異音を聞き逃さぬよう、耳を立て、注意深く進んでいく。
 やがて、前方の暗い場所に、何か人影のようなものが集まっているのが見えた。壁に追い込まれた一人と、それを取り囲む二、三人の人影。壁に追い込まれた人影は、どうやら男のようだが___。

「……あ、あの人!」

 思わず声が出た。
 あの男は、今朝私をブス呼ばわりした憎き男子ではないか。
 頬には殴られたのか、青くなって腫れ上がっており、いかにも痛々しい有様だ。だが、その見るものを威圧するようなつり目は、目の前の二人組を射抜かんばかりに睨みつけている。
 三人もこちらに気づいたようだ。

「あいつらっ……!」

 前に言ったかどうかは覚えてはいないが、私はこの通り、一人に対して多数が袋叩きにする行為が一番嫌いなのだ。叔父曰く、父親譲りらしい。
 私は落ちていた手ごろな石を手に取り、相手に狙いを定める。とりあえずこちらから見て前の方に立つ坊主頭の男に向かって、投げた。
 投げた石ころは、一直線真っ直ぐに飛んでいく。そしてどういう奇跡か、石は見事男の頭に命中した。

 男はよろけるが、すぐに体勢を立て直す。

「ッなんだぁこのアマ! ……!?」

 坊主頭はその強面な顔をこちらに向け、私を見た瞬間。何故か、視線を逸らした。私のほんの横をじっと見つめている。
 そこにいるのは。

「え」

 間違いない。
 この男、雨地を見ている。

 14→← 12



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (16 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
設定タグ:オリジナル , 幽霊 , 学生   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2015年7月17日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。