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その日も雨が降っていた。
傘のないその日に限って不幸な話だが、丁度梅雨の時期に当たるその雨は、大雨、という程ではなかった。しとしとと、制服をうっすらと湿らしていく程度の雨。
耳の中に、断続的な雨音が木霊する。
何故そこに立っていたのか、自分でも分からない。というより、覚えていない。ただ、がむしゃらに走っていたのだけは覚えている。
多分登校のために通る道だったからかもしれないし、帰り道に当たるからかもしれない。どうも記憶が曖昧だ。それくらい、意識を半分手放していた。あの時なら背後から話しかけられても簡単に無視を決め込めただろう。
雨に濡れた制服に生温い風が吹きつける。夏特有の風でも、濡れた体には堪えるものがあった。
目の前に横断歩道がある。
夕方どきだったが、天候が天候なのか、自分以外の歩行者や道路を通る車はなかったように思える。これ以上のない静寂が薄暗い空間を不気味に彩り、まるで深夜帯の外の中に立っているかのようだ。
目上の信号機は赤で、それをぼうっと見つめる。
待ちながら、色々なことが頭に過ぎっていった。
今度は折りたたみ傘を忘れないようにすること。
明日はどうやって過ごそうか、とか。
"あいつ"をどうやって回避しようか、とか。
前髪の先から雫が垂れる。
頬を伝い流れた雫は他の雨水に混じりながら、顎に差し掛かり、そして離れていった。
その時、青に変わる信号機。
落ちた雫の音を聞き届けぬまま、右足を踏み出す。
白線を踏み越え、俯いて歩き出したその視界の中が、突如白く染まった。
驚いてその方向へ顔を向けると、眩いほどの白い光が待っていた。焼かれるような痛みに思わず目を瞑る。
後に続くけたたましいクラクションの音で、ようやく私に迫ってくるそれが大型トラックだと知ったのである。
遠くの方で聞こえる雨の音。
水溜りを轢いた音。叫ぶ暇もない。
走馬灯は見えなかった。
「危ねぇ!!」
確か、そんな言葉を。
手首を掴まれ、後ろに強く引っ張られる感覚。
ばっと瞼を開き、鮮明になった視界を、信号無視のトラックが猛スピードで走り過ぎた。
声も出ず、膝が震えた。呆然とする私の頭上から、ふと冷静な声が落ちてきた。
「……大丈夫か」
控えめに手首を引っ張られ、私はその声を見上げる。
見たことのある顔が、こちらを覗いていた。
手首を握るその手は、まるで死んでいるかのように冷たかった。
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燕＊(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます！あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…！お褒めの言葉、とても嬉しいです！これからも当作品を宜しくお願い致します！ (2016年1月6日 2時) (
レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです＾＾ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕＊(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね！ (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか？勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか？ (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
燕(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます！とても励みになります…。これからも日々精進して参ります！ (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：燕 | 作成日時：2015年7月17日 1時
