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「あの…どうかしましたか?」
彼の顔を覗き込むと、すぐに私の方を見て微笑んだ。
「俺、この場所知ってますよ。」
少し舌ったらずな優しい話し方。
「右端のとこに、看板見えるでしょ?これ公園の中にある茶屋なんですよ」
彼は手に持っていたビニール袋を下に置き、ポケットからスマホを取り出した。
現在地を示すマップを見せながら、「真っ直ぐ進んでここを右に曲がって…」と丁寧に道を教えてくれた。
「ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をして、教えて貰った方向に向かって歩き出す。
「あ、ちょっと待って…!」
瞬間、腕を掴まれ引き止められた。
不思議に思い振り返ると、彼はパッと手を離す。
「あ…、あのビルの5階のバーで働いてて。いつでも飲みに来て下さい」
顔をくしゃっとさせて笑うと、下に置いていた荷物を持ち上げた。
じゃあまた、と彼は向かいのビルに向かって歩き出した。
すごく親切な人。
温かくて優しい声をしていて。
人を惹きつける様な眩しい笑顔で。
でもふいに変わった表情は、儚く消えてしまいそうで。
彼は夕焼けが似合う不思議な人だった。
教えて貰った道を辿ると、茶屋の屋根が見えてきた。
周りの並木にはもちろん花はなく、先端には焦茶色のつぼみがまだまだ固く閉じられていた。
その景色に写真をかざすと、アングルがばちっと重なる。
そっか…。これが貴方が見ていた景色なんだね…。
頰には一筋の涙が流れた。
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moco(プロフ) - りんさん» りん様、ご覧頂きありがとうございます!亀更新になりそうですが、続きもお読み頂けたら嬉しいです! (2019年4月7日 8時) (レス) id: 169c616d0b (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - コメント失礼致します。お話読ませて頂きました!これからのお話も楽しみにしています。 (2019年4月7日 1時) (レス) id: 2bc4477fb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:moco | 作成日時:2019年4月3日 22時