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「何か手伝うことある?」
「あ…お待たせしてますよね!すみません…」
静まり返ったオフィスで、施錠を任された先輩にPCモニターを覗き込まれる。
気付けばそこには先輩と二人きりだった。
作成中の資料を上書き保存し、USBメモリーを鞄の内ポケットにしまう。
オフィス内の点検があるからと、先に帰るよう促された。
PM10時過ぎ。
日中の暖かさとは打って変わり、冷たい風が時折身体をかすめる。
風が止めば、それはそれで
ひんやりとした澄んだ空気に包み込まれている感覚は、冬の名残りだろう。
オフィス街を抜けると、そこは居酒屋やファストフード店、カフェなどの飲食店が建ち並んでいる。
行き慣れた7階建てのビルのエレベーターに乗り込み、5階のボタンを押す。
目的の階にゆっくりと上がる密室は、決して広くはなく、誰のものだか分からない甘い香りが微かに残っていた。
先程風に晒された髪が乱れていないか、せめて手ぐしで前髪を整える。
上の方に目線をやると、エレベーターのランプは5階を知らせ、またもゆっくりとドアが開く。
フロアに降り、数歩の距離にある黒くて重そうな扉に手を掛けた。
ふぅっと一呼吸置いて、私はその重い扉を押し開けた。
扉の動きに、顔を上げた目の前の男性は
私に気付くと一瞬ハッとしたかと思えば、すぐにニコッと微笑み
「おぉ、いらっしゃい。Aさん」
どうぞ、座ってと、カウンターの一番端の席に案内される。
「遅くまでお仕事、お疲れ様です!」
「優太くんもお仕事お疲れ中だね」
「いやぁ、Aさんの顔見たら、疲れとか吹っ飛びました」
手元を忙しそうに動かしながら優太くんはそう言ってはにかんだ。そんなリップサービスに気分は良くなるものの、真に受ける程単純ではない。
ただ優太くんの優しい声を聞けば
自分の顔にも笑みが戻る程には、彼のことを慕っている。
恋愛のそれとは、また別なのだけれど。
「で、何飲みます?」
「んー…じゃあ、とりあえずビールで」
「はは、了解です」
そんな居酒屋の決まり文句みたいな会話も許される、とても居心地の良い空間。
優太くんは先に作っていたドリンクを片手に「ちょっと出して来ますね」と、少し離れたボックス席へと運びに行った。
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moco(プロフ) - りんさん» りん様、ご覧頂きありがとうございます!亀更新になりそうですが、続きもお読み頂けたら嬉しいです! (2019年4月7日 8時) (レス) id: 169c616d0b (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - コメント失礼致します。お話読ませて頂きました!これからのお話も楽しみにしています。 (2019年4月7日 1時) (レス) id: 2bc4477fb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:moco | 作成日時:2019年4月3日 22時