【85】変わらないということ ページ35
.
あの日。
「しっかり見届けた」と言ったあと、裕くんは部屋に入って腰を下ろしながら
「これでお互いすっきりやな」
と雅紀に言った。
「うん。すっきりだね」
私から手を離して、雅紀もそう答えた。
「結構大変やったな、今まで」
「そうだね、なんだかんだ」
「なにが？」
二人だけの会話が的を得ないのは昔からで、私がこう言うと必ず「別に何もない」と返してきた二人だった。
そしてこの時も
「何にもないよ」
「何でもないわ」
同じように返ってきた。
「何よ、いっつも二人だけで完結してさ」
「いいんだよ。Aは知らなくて」
「まあ、鈍いのは昔からやしな」
覚えてる？あのときもそうやったやん。中学のときの。
ああ、あったねー。そうそう、大変だったよね。
二人してまた思い出話を始めて、どうやらその内容は私が絡んでいるみたいだったけど、やっぱり的を得なくて。
「ま、Aが気がつかないようにしてたのは俺らなんだけどね」
そんな顔しないで？と雅紀が私のほっぺをゆるく摘んだ。
裕くんは自分のコーヒーを啜って、笑っていた。
帰り道、先に雅紀の車を降りた裕くんが、「助手席に座り」と私を一度車から降りるように促した後。
私を見下ろしながらこんなことを言った。
「昔、雅紀の部屋で言ったこと、覚えてるか？」
「言ったこと？」
「俺らはずっと変わらんから安心しろ、言うたやろ」
大学生の時に、雅紀の部屋で深夜、お酒に酔った裕くんが私に言ったセリフだった。
忘れるはずなんてない。私は、裕くんが私に言ったことは、なんでも覚えているんだから。
「な、変わらんかったやろ。俺と雅紀とA、俺らはずっと変わらん。ちょっと大人になったけどな、もう死ぬまで変わらんで」
だからこれからも安心しとけ。
私の頭をくしゃくしゃと撫でて、裕くんは最後にこう言った。
「安心して、雅紀に大事にされとけ。今まで通りな」
それから、雅紀ありがとな、と運転席に声をかけて、自分のマンションに消えていった。
その後ろ姿を見送っていた私に、雅紀が声をかけた。
「A、帰るよ」
「･･･うん」
助手席に座ると、静かに車は動き出した。
雅紀は特になにも話さず、いつも通り機嫌よく鼻歌を歌っていた。
私は、何故かとても満ち足りた気持ちで、窓の外を眺めていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
＊砂のプリン＊side A ”Farewell Gritty Pudding" 【完結】＊砂のプリン＊side A ”Farewell Gritty Pudding" 3 ＊砂のプリン＊side A ”Farewell Gritty Pudding" 2もっと見る
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りりい(プロフ) - りぃさん» こんなオチで果たして本当にいいんだろうか、とモヤモヤしっぱなしの状態で完結したんですが、楽しんでもらえたでしょうか。ご拝読ありがとうございます！楽しみにしていただいて嬉しいです。続編もずっとローテンションのままですが、宜しくお願いします！ (2017年1月17日 22時) (
レス) id: e73758d9c4 (このIDを非表示/違反報告)
りぃ(プロフ) - りりいさん、完結お疲れさまでした！３人に会えるのが楽しみで、でもだんだん終わりが近づくのが淋しくて、複雑な気持ちでお話を追いかけてました。でも、３人なりのいちばん居心地のいい形に落ち着いたのですね♪ 続編ほんと嬉しいです！ありがとうございます☆ (2017年1月17日 0時) (レス) id: 4f5ba8ca6f (このIDを非表示/違反報告)
りりい(プロフ) - トリコさん» トリコさん初めまして！コメントありがとうございます。私もうまく決着つけられるかすごく緊張してました。ちゃんとオチてはないですが、ま、これからも人生は続いてく的なアレでお願いします。20年の雅紀！長いですよね笑。これからもよろしくどうぞ！ (2017年1月16日 22時) (レス) id: e73758d9c4 (このIDを非表示/違反報告)
トリコ(プロフ) - 久しぶりの更新に、うまく決着つくのかどきできしながらみてました、初めまして。復活してくださってありがとうございます！20年の雅紀のお話たのしみにしています！ (2017年1月16日 0時) (レス) id: d747021add (このIDを非表示/違反報告)
りりい(プロフ) - りぃさん» コメントありがとうございます！こんな過疎地にようこそいらっしゃいました。初恋が叶う稀有さ。。。本当ですね。怒涛の更新は、勢いづいてしまって妄想が止まらない妄想の結果なんです。最後までどうぞ宜しくお願いします！ (2017年1月13日 22時) (レス) id: e73758d9c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りりい
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=lily1022
作成日時：2015年4月18日 0時
