【陰陽師】女子高生と茨木童子 2

心の行き先 ページ30

その言葉を聞いた途端、止まりかけていた涙が再び流れ始めた


目の淵から溢れ出る雫は重力によって落ちていく


「…………っ」


私は声を殺して泣いた


「我はそなたが泣いているのを見ると、心が苦しくなる」


大天狗な撫でていた手を背中に回し、ギュッと抱きしめ私の肩に頭を預けた


生温い風が、大天狗の綺麗な髪を撫でていく


「そんなに悲しいのなら…そいつじゃなくてもよかろう」


絞り出されるような、そんな声で大天狗は呟いた


まるで妹の恋路を気にするお兄ちゃんみいだね、と言うと苦笑されてしまった


私の眼に真っ先に浮かび上がってくるのは…茨木童子ただ1人だけだ


それに恋仲まで…なんて気にしていないと言ったら嘘だが、私は千年後の時代から来た人間だ


元の世界に帰りたい、とまではいかないが大切な者達を残してきてしまったことに心残りがある


死ぬまで行かなくとも、離れ離れになるのは避けられないのかもしれない


私はギュッと拳を握る


大天狗の良い香りが鼻をかすめる


…ああ、やっぱり私は茨木童子がいい


「私ね、恋すれば妖も人間も変わらないと思ってたの。だけど…あの鬼は違ったのね」


息を吸い込み、言葉を口にする


「あの鬼には申し訳ないけど、私納得いかないの。ちゃんと向き合って…話したい」


大天狗は黙ったまま私を抱きしめる力を強める


く、苦しいな


私はなだめるように、大天狗の頭をそっと撫でた


「…そなたがそう決めたなら、そうするといい」


大天狗は肩から顔を離し、私の顔を上から見つめる


「ただ今しばし、我に時間をくれないか？」


そう言うと大天狗は私の頭の後ろに手をやり、そのまま自分の胸板へと引き寄せた


私は訳が分からず、されるがままでいた…が


「ちょっ…！大天狗どうしたの？」


狩衣から伝わる大天狗の体温が、触れているところへ伝染し身体中熱くなる


何か大天狗の様子おかしいよ…


不安がよぎり、顔を見上げる


そこには少し苦しげに見えて悲しくもみえる表情があった


「具合、悪いの？でも幾ら何でも簡単に女の人を抱きしめちゃだめよ」


こんな簡単にハグされる私も、おかしいけどね…


「そなただ」


「ん？」


言葉を紡ぎ始めた大天狗の頰が桃色に染まる


「そなたが…我を………」


最後らへんが声が小さく、聞こえない


「ごめん大天狗、聞こえなかったからもう一回」


「っ何も言っとらん！」


大天狗は不貞腐れてソッポを向いてしまった

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