12.甘えても ページ12
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銀島くんの代わりに目の前に立った角名くんを見上げる。
Aちゃん、と落ち着いた声で名前を呼ばれた。
「目、見るからじっとして」
「え、や、やだ」
「………やなの？」
「あ、いえ……お願いします」
こ、怖い。これもはや脅しじゃないのか。
なんて思いながらじっとしていると角名くんが身を屈めて
ぐっと顔を近づけてきた。
あまりの至近距離に唇を噛んで息を止める。
「あ、これかな。くっついてる」
「……？」
「ちょっとだけ目閉じて」
なぜか、すんなりとその言葉を受け入れて。
言われるがまま目を閉じる。
微かに目元に角名くんの指先が触れる感覚がする。
そっと優しくて。少しだけ体が強ばった。
しばらくして「ん、いいよ」と優しい声がして目を開ける。
さっきとは違って少し温かみのある声だ。
「まだ痛い？」
「あ…ううん、もう大丈夫」
いつの間にか左眼の痛みは消えていて。
二人に迷惑をかけたことが何だか申し訳なくなった。
「……なんか、ありがと」
ちょっと甘えちゃった、と少し照れながら呟く。
すると角名くんは何も言わずこちらに手を伸ばしてきた。
その手は私の頬に触れて髪を耳の後ろにかけると、
そのまま耳をなぞるように撫でた。
ビクッと肩が震えて顔に熱が集まる。
「ん、もっと甘えていいよ」
そう言って優しく微笑んできた。
えっ。なに、それ。
身体中に心臓の音がうるさいくらいに大きく響く。
固まったまま角名くんを見つめていると、
「あ、バス来た！Aこれお前が乗るやつちゃう！？」
バスが来たことを知らせる銀島くんの元気な声によって、
パッとお互いに距離を取った。
「銀……」
ちょっぴり困ったように笑う角名くんにつられて。
ふふ。と私も緩く笑い返した。
*
銀島くんと角名くんにサヨナラして。
心地よく揺れるバスのなかでぼんやり窓の外を眺める。
感情がコロコロ変わって、何だか慌ただしい放課後だった。
髪がかけられ剥き出しとなった耳に触れると、
角名くんの声や表情を思い出してはまた顔が熱くなる。
「んーー…」
ごつん。と冷たい窓ガラスに体を預けながら、
熱を帯びはじめた頭を冷ました。
……あーダメだこりゃ。意識してる。
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作者名：. | 作成日時：2020年1月29日 23時
