雫

4粒。 ページ4

必死で記憶を手繰り寄せる。
10年前のものを、何とか蘇らせようと。



2人はあたしをなんて呼んでたっけな…？
ここにいる時間が長すぎてもうほぼ掠れて見えなくなっていた。



2人の顔も思い出せるか微妙だ。



『…記憶喪失とか？』


｢違う、817で居る期間が長いから思い出せない｣


『俺より先におったもんな』



笑う2人はあたしを…
泣く2人はあたしを…



((A))



パンっと風船が割れるような感覚がした。
あたしの名前は、



｢A…だ｣



もう使うことはないと思っていたその名。
口に出してみると何だかむず痒くて変な気持ちになった。
自分だけれど自分ではないような。



でもこれがあたしなんだ。
何も無い世界で生きていたならこの名と共に歩いていた。
番号なんかじゃなく、量産型の製品なんかじゃなく、個の人間として生きたなら。



個の人間、だったはずなのに。



『Aね。俺…流星、流れ星の流星』



なんの迷いもなく自分の名前を言える彼が少し羨ましい。
まだ鮮明なんだなって。



それにしても、綺麗な響きのそれが番号で消えてしまうのはとてももったいないと思った。



流れ星。
実際に見たことはないけど夢のある景色だということは知っている。
煌びやかで、眩しくて。



そんな彼がここを出たいと思うのは当然か。
強く輝き暗い空を照らす星が閉じ込められているのは、残酷だ。

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