花散る前に雪よ舞え【太宰治】

31.安堵 ページ32

Asaid





「こんなの…云えないよ」




私はナオミちゃんと与謝野先生から貰った指南書という名の紙をベットで横たわりながら眺めていた






『告白は二人で帰宅している時か家の中
いずれにせよ夜
告白はストレートに
告白できたら後は太宰に任せる！』



下の方にはズラズラと告白台詞の例が沢山あった






「帰宅途中は無理だったし
太宰さんはもう部屋にいるし」





二人の気持ちは凄くありがたかったし嬉しかった



でも




「…ごめんなさい」




こればっかりは駄目みたい







「あ、もうこんな時間」




起きてても考えてしまうだけだし





私は貰った紙を鞄にしまい



部屋の電気を消した





「…眠れない」




如何してこんな時に限って眠れないんだろう



否、こんな時だからか




私は車椅子に身を移した





「外の空気でも吸ってこよう…」





ベランダの戸を開けるといたのは
月明かりに照らされた太宰さん





私は少し魅入ってしまった




「あ、あの！」






「ああ、居たのか
A」








太宰さんは此方を振り向いた




其の表情は何時もと違い少し哀しそうだった








「と、隣…いいですか？」









「嗚呼」






私は段差にどよめきながらも太宰さんの隣に来て塀に掴まり車椅子から立ち上がった





最近、少しだけ足の感覚が戻ってなにかに掴まれば長時間立てるようになった




無理矢理でも歩く事が増えたからか


前に龍之介君と闘った時、与謝野先生に傷の治療してもらったからか




よくわからないけど





異能力が要因なら嬉しんじゃ駄目なのは知ってるけど矢っ張り嬉しかった






そして、若しかしたら歩けるようになるかも




なんて期待も芽生えた







太宰さんの隣を歩けるかも



なんて莫迦な期待も







「眠れなかったのかい？」








「…うん
太宰さんも？」









嗚呼
と云って俯いた太宰さん





その横顔に私は惚れ込んだ








「夢を見たんだ
過去の夢」





そう云った表情は哀しそうだった





「過去の夢…」





太宰さんの過去についてはよく知らない



でも、私は追求しなかった




太宰さんが私に追求しなかったように







「何故今になって、夢になるのだろうね」









私は太宰さんを抱き締めた







「A…？」







「だ、太宰さんがこうしてくれて…私安心したから」





すると太宰さんは私の頭と背中に手をまわした




「ありがとう」

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