９話 ページ9
毎食豪勢な食事、隅々まで行き届いたサービス、一切の不自由がない生活に何だか申し訳ない気分になりながら、早くも三日は過ぎた。あまりに快適だったせいで時間の流れが速かった、といった方が正しいか。
Aにとっては初めての海外だ。見慣れない品に目を寄せようにも、着物を着ている人など一人もいないから、Aの姿は目立って仕方がない。道すがらひそひそと聞こえるささやき声に身を縮めながら、執事達に連れられ足早に駐車場に向かった。船内で説明されたところによれば、ここからゾルディック家までの道のりを車で行くらしい。
「ここから更に陸路を一時間半ほど進みます。もしお疲れでしたら休憩時間を設けますが、いかがなさいますか」
「ご心配には及びません。どうぞお気遣いなく」
この三日間Aは気を遣われっぱなしだったので、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないと休憩を辞退した。事実、日頃鍛えている上に快眠続きだったから体の疲れはないに等しい。いっそ普段より活気に満ちているくらいだ。執事は「左様でございますか」の一言で特に休むことを勧めるでもなく、車体の長い黒塗りの車にAを案内した。
「では、ゾルディック家正門までご案内致します」
こちらも内装が高等で、椅子の座り心地からして既に気持ちがいい。後部座席に共に乗り込んだ執事からはよく冷えた飲み物を渡され、恐縮しながら受け取った。空調も寒すぎず暑すぎず、ここで生活しろと言われたら喜んでと答えられる環境である。
りんごジュースを飲みながら運転席の執事が言う案内を聞き、心地よさにすっかり気の抜けていたAの頭にふとした疑問が浮かんだ。ほんわかとした気分のまま、何とはなくの話題として、
「正門まで？ ご邸宅までは案内して下さらないのですか？」
と聞いた。すると執事は一瞬口を閉ざし、微かに気迫の滲む口ぶりで「流石、鋭いですね」と答えた。不思議そうに首を傾げるAがバックミラー越しに見えたのだろう、「到着してからのお楽しみです」と悪戯っぽく付け加えた。
舗装された坂道を上ること、通告通りに一時間半。停車した先にある巨大な門を見上げ、Aはほうと息を吐いた。
「こちらがゾルディック家正門、『試しの門』です」
一の扉は片方二トン、数字が増えるに従い重さは倍になっていく。どこから恨みを買うか分からない家柄であるから、当然の処置ではあるが、仕組みの壮大さにすっかり驚いてしまった。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
