７話 ページ7
ゾルディック家の邸宅があるというパドキア共和国までは飛行船で三日ほどかかる。移動を考えると、来週いっぱいは店を休まなければならないだろう。他にも着替えや化粧品など、用意するものは山ほどある。様々な手続きを一つずつ頭の中にリストアップしながら、保留ボタンをもう一度押して通話を繋げた。
「大変お待たせ致しました。こちらの予定としては問題ありません」
『そう、それは何よりです。では、最寄りの空港を教えて頂けるかしら』
「空港、ですか？」
『ええ。私用船を迎えに向かわせます。細かい時間は後日連絡差し上げますわ』
またもとんでもない発言にめまいがした。ずいぶんさらりとこともなげに言うが、私用船を空港で離発着させるのはそう簡単なことではない。金銭面や本来のダイヤと見合わせて入念な準備が必要だというのに、そこは流石のゾルディック家というべきか。驚きが極まって逆に冷静になり始めたAは、それでも呆然とした様子が抜けきらないまま「ありがとうございます」と礼を言い、記憶にある限り一番近くにある空港の名前を伝えた。
『では一週間後に。お待ちしていますね』
ぷつんと、会話の重さなど感じさせない呆気なさで通話は切れた。ツー、と無機質な電子音にしばし聞き入ってしまう。それほどに混乱していたし、困惑していた。決まってしまったものは仕方ない、と仕事人としての頭が長期にわたり店を閉めた時の損失を計算しているが、反面Aは十九歳の女の子である。人の生死に関わるぶん同年代の女の子よりかはずっと気丈ではあるが、会ったこともない男性とのお見合いだなんて、気が乗る方がおかしいのである。
もう数えるのも億劫になるくらいついたため息がまたこぼれた。これまでの中で、最も深刻なため息であった。
神に頼めど仏にすがれど、時間というものは人間が作り出した概念のくせに何よりも人間を置き去りにする。一週間とはこんなにも早く過ぎ去るものだったろうか。すっかり支度の整った荷物達を前に、Aはこのまま家にこもっていたい気持ちを抑えるのに必死だった。
与えられた準備期間の最中、Aは自身が持つ二律背反する感情に折り合いをつけるのに一等苦労した。殺しを厭わない冷徹な自分は、驚くほど迅速にキャリーバッグを新調したり長期閉店のお知らせを作成したりするが、一方で、小料理屋の女将としての自分は行きたくないと叫ぶものだから、一人で百面相をすることもしばしばだった。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
