４３話 ページ43
結局、イルミは出先であの弁当を口にした。気遣いだとか、思いやりだとか、そういう優しさからではなく、単に他の食事処を探すのが面倒だったからである。手の平サイズの小ぶりなお握りの具は塩昆布と梅干し。適当に栄養素を補うには十分な内容物で、実際食した時にも味や食感に違和感はなく、むしろ下手な店で安い定食を注文するより何倍もマシだった。
異変が起こったのは食後十数分してから、更に言うならこれからターゲットの屋敷に侵入しようかという頃合い。異変とはいっても、体に不調が見られた訳ではなく、その
特にいつもの仕事と変わった行動はしなかった。原因があるとするならば、Aに持たされた弁当以外に思い当たる節はない。最初は有用な効果を付与しておいて後で代償を頂戴する、などといった能力の可能性が高い。そう仮定して、イルミは包丁を突きつけた。なのに。
「あ、あっ、あの、イルミ様、その、それは、ええ、確かにわたくしの能力によるものと思しいですけれど、いえ決してイルミ様に危害を加えようとしたということはなく、ええと……」
顔を青くして弁明するのなら分かる。例え頬を赤らめようと、逆ギレして激高したことによる紅潮なら理解ができる。しかし、Aの顔を彩る赤みはどう見ても含羞によるもので、全く想定していなかったリアクションに流石のイルミもあっけに取られた。
組み合わせた手をもじもじとすりながら、Aは居たたまれないような表情で「た、立ち話も何ですから、座りませんか？」とこの状況から逃れるべく提案した。「その、イルミ様の懸念の一切について、説明致しますので」
殺意どころか敵意も何もない、純朴な街行く乙女のような顔で言われては、戸惑いながら了承する他にない。包丁は退け、しかし手の内に針を隠し持つことは忘れずに、新婚夫婦は食事のない食卓に着いた。あのイルミをここまで動揺させた時点でAは勲章ものではあるが、それに驚嘆する者は不在のままだ。
「恐らくですが、イルミ様は、あのお弁当を召し上がった後に何か感じたのではありませんか？ 例えば、体が軽いとか」
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
