４１話 ページ41
挨拶回りも無事──というには多少乱暴な事件が一つ、不穏な会話が一つずつあったが、怪我がないので無事とする──終わり、Aはあてがわれた自室に戻ってきた。とはいえすることがないわけではなく、キキョウに頼まれて夕飯も作ることになったので、これからキッチンに行く予定だ。
イルミが何時頃に帰ってくるのか分からない以上、いつ戻ってきても温かい食事を提供できるような献立がいい。オーソドックスに鍋などどうだろうか。味の調整も容易いし、材料も簡単に揃う。この時期なら鳥が美味しい。
色々と入れる野菜を考えながら覚え立ての通路を辿るAの鋭敏な肌が、何者かの気配を捉えた。一本道であるこの通路で、正面からこちらに向かってくる。遭遇は避けられない。
ゾルディック家の邸宅なのだからまさか外敵ということはないだろうが、先ほどのカルトのように、Aの存在をよく思っていない人間がまだいる可能性がある。悟られない程度の警戒を備えて、足音もなく近づいてくる気配に直面した。
「……む？ 見ない顔じゃの、お嬢さん」
歩いてきたのは一人の老人であった。腰は曲がって髪も髭も綺麗に真っ白だが、表情には未だ若々しい気迫があり、何より老成という言葉では到底足りないほどオーラが洗練されている。腰に下がった「生涯現役」の文字から察するに、恐らくゾルディック家の人間で、外見年齢から推測して祖父だろうか。
一秒足らずの思考でそこまであたりをつけたAは、とりあえずこの老人に敵意がないのを確認し、恭しく頭を下げた。
「初めまして。ゾルディック家のご祖父様でお間違いありませんか？」
「いかにも。お主は……ああ、確かイルミの奴が嫁を取ったとか聞いたな。その子かね」
「はい。Aと申します、ご祖父様」
「ゼノじゃ。そう畏まらんでもよい」
「ありがたいお言葉、恐縮です。ではゼノ様と」
「堅いのう……まあ、ゆっくりなじんでいくといい。何か困ったことがあったら相談に来てくれてもよいぞ」
「お心遣い感謝致します、ゼノ様。どこかへ行く途中でしたか、お引き留めして申し訳ありません」
「何、気にするでない。義理の孫との語らいで気を悪くする爺なぞおらんわい」
シルバの印象が厳格な当主であったから、何となく気難しい老人をイメージしていたのだが、想像に反してゼノは気さくな様子だった。
ゾルディック家に来てから、いい意味で予想が裏切られてばかりだ。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
