５話 ページ5
体さばきと立ち居振る舞いから、ただ者ではないことは分かっていた。そちらに気を取られて、肝心の外見をよく見ていなかった。
ジャポン人の顔立ちではない。海外から来たのだろう。深い闇を内包した猫のような瞳が特徴的な、黒髪の男性だ。顔だけを見ると女性と見まがうほど中性的で美しいつくりだが、体つきは間違いなく男性のそれである。しかも、よく鍛えられた。身長も高い。Aも百六十センチ以上はあるのだが、この男性はそれを優に越える。目測で百八十センチはあるだろう。ジャポン人は身長が低いから、座っていても目立つ。
「何のこと？ それより、このアゲダシドーフっていうの一つ」
「……かしこまりました。ごゆっくり」
Aの礼に、あくまでしらを切るつもりらしい男性は、それは見事な他人面でメニューの一つを指さした。発音がぎこちない。どうやら和食文化に疎いようだから、箸は出さない方がいいだろうと店主として気遣う。
一方、ただの女の子としてのAの心はどきどきが止まらなかった。食い逃げ犯を足止めしてくれたというのに、それを恩に着せようとしない親切さ。なんて格好いい人だろうか！ 整った顔立ちも素敵だし、声も落ち着いていて素敵だし、ああ、とにかく全てが素敵だ！ こんな具合で、少し足取りも跳ねている。
つまり、Aは一目惚れしたのだ。名前も知らない男性に。生まれてこの方、自分で店を開くまで自由とは縁遠い生活をしていたAは、家族以外の異性とろくに話したことがないこともあって、絵空事と断じるくらいには恋愛ごとへの耐性がめっぽう低かった。ひな鳥が初めて見たものを親と認識するように、初めての恋に夢中になってしまったのである。
きっかけも絶妙であった。何かと実力主義な世界で生きてきたAにとって、自分より弱い男はそもそも異性として見るに値しない。それがどうだろう、この男性ときたら、細かな仕草の一つに至るまで洗練されている。先ほど食い逃げを引っかけた足の速さだって、並みのアスリートなど比ではなかった。強くて、優しくて、格好いい男の人。恋を知らない無垢な女の子でなくとも惚れるには十分すぎる。
──無論お察しの通り、この客というのはイルミのことだ。もっとも、イルミにしてみれば、ジャポンに仕事に来て食事処に迷っていたところ、母親と同じ名前の店に入ったら男が敵意を持って走ってきたから、とりあえず倒したというだけなのだが。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
