３７話 ページ37
警戒心を滲ませた様子のミルキの視線を背に受けながら部屋を出て、次は三男のところへ行くことになった。三男キルアの名前は既にイルミから聞いている。将来有望な息子さんでしたよね、と何気ない世間話のつもりで言うと、キキョウはスコープの光をきゅいんときらめかせて勢いよく振り向いた。
「そうなの！ キルはとっても才能がある子なのだけれどちょっと変わった子で、家業を継ぐのを嫌がっているみたいでね。どうにかできないかっていつも考えているんだけど、上手くいかなくって……ああ、そうそう。つい先日まで天空闘技場で修行を終えたばかりだから、まだ疲れているかも知れないわ。紹介が短くなってしまうかも知れないけれど、いいかしら」
「は、はい。お気になさらず」
突然饒舌になったキキョウの怒濤の喋りに気圧されながら、Aは頷いた。天空闘技場といえば野蛮人の聖地と名高い格闘のメッカである。恐らくまだ幼い歳頃であろうに、そんなところで修行をするのは尋常とは言えない。しかも終えたということは、あの当主──シルバの納得のいく結果を出して来たということだ。流石はゾルディック家期待のご子息、と胸中まだ見ぬキルアに感心した。
ミルキの部屋を出て歩くこと数分。作りは同じだが、まるで普通の家庭の兄弟がするようにドアに「キルア」と刻まれたプレートを提げた扉があり、そこをキキョウがノックする。
「キル。今いいかしら？ 紹介したい人がいるの」
すると中からがさがさと音がして、重そうな扉が開いた。現れたのはAの想像よりもずっと小さな年端も行かぬ少年で、頬に絆創膏を貼っているのを引いても余りある美少年である。澄んだ銀髪が薄暗がりの中でもきらきら光っていて、猫を思わせるバイオレットの瞳が、純粋な関心を持ってAを見上げている。
体から垂れ流されているオーラでさえ、何と洗練されたことか。たった数秒にも満たない観察にも関わらず、Aはキキョウやイルミの言った「才能のある子」という言葉の意味を完全に理解した。彼は──キルア少年は、将来必ず大成する。
「……誰？」
声変わりもしていない高い声に問われ、Aは慌てて微笑んだ。
「初めまして、キルア君。Aと申します。イルミ様の妻としてゾルディック家にやって参りました」
つま、と随分辿々しい口調でキルアが単語をおうむ返しにする。直後、やはりミルキ同様、盛大な絶叫が廊下にこだました。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
