２６話 ページ26
はっきりと意見を述べられるのは好ましいことと捉えられる方が多いと思っていたのだが、これもジャポンの国民性なのだろうか。何だか面倒そうな文化に僅かに眉をひそめ、イルミはなおも弁明を繰り返すAの肩を掴んで無理に向かい合わせた。
どんな罰でも、とかお許しを、とか、謝罪の言葉を連ねていた口がぴたりと止まり、突如眼前に迫った思い人の端正な顔立ちに喉が引きつる。先ほどまでのさえずりが嘘のように顔を真っ赤にして押し黙ったAに、イルミははっきりと言った。
「別に謝らなくていい。その程度で怒らないから。……キミに言われたこと、覚えておく」
不器用にそれだけ伝え、呆然とするAに質問の隙を与えずきびすを返して自室に戻ってしまった。
この行動に表れるように、実のところ、情念豊かな異国の少女をどう扱っていいものか分からず、イルミは若干の困惑を隠しきれていなかった。何もかもが未知なのである。恋に一心になれる素直さ、他人のために饒舌になれる寛仁さ、それでいて随所に垣間見える暗殺者として卓越した冷徹さ。どれもこれも、ちぐはぐで理解に難い。
その上、イルミが知る愛と彼女の愛はどうにも合致しない。第三者の目から見た感想を述べるのならば「どっちもどっち」の一言に集約されてしまうのだが、そう言えるほどどちらも普通の愛情とは一線を画した異様な形態を取っているから、殊更に相互理解の道は遠かった。
上等なキングサイズのベッドに体を預け、イルミは先のAの言葉を反芻した。彼女がなぜあれほど「予備」という単語に怒りを覚えたのか、説明されたというのにイルミは未だはっきりと理解していなかった。正確に言えば、そこに伴う感情を理解できていなかった。他人に罵られたのならともかく、自分で認め、受け入れている事実であるというのに。そんな気持ちが強い。
何より不可思議なのは、既に納得済みの予備扱いに苦言を呈されたというのに、それを少しも不快に思えない点だ。Aが自省していた通り家庭の事情に踏み込んだ発言であることに変わりはない。にも関わらず、である。一歩違えば無遠慮な放言。しかも、互いのことすらほとんど知らない間柄だ。
思いやられているから。真実イルミのことを愛し、好いて案じているからこその発言であるから。言ってしまえば簡単なことであるのだが、生憎とイルミはそういった了見に疎く、この答えに辿り着くのは現時点では不可能であった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 543人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HUNTER×HUNTER」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
