３話 ページ3
それというのも全て父親のせいである。十九歳の誕生日だからとめかし込んで撮った記念写真を、勝手に見合い写真に使われるだなんて誰が想像しよう。父の気持ちは分からないでもない。ジャポンでは女子は十六歳から結婚できるというのに、もう三年も恋人の陰も見せない一人娘が行き遅れることを案じたとは思うのだが、そんな父親の余計なお世話が、Aをひどく苦しめていた。
これが一般の家庭に出されたのならまだよかった。適当に「あれは間違いでした、申し訳ありません」とお断り申し上げるだけで済む。しかし何を血迷ったか、あのバカ親父はゾルディック家に写真を送りつけたのだ。それを電話で聞いた時、Aは危うく卒倒するところだった。
ゾルディック家といえば、辺境の地たるジャポンの裏社会でもその名を轟かせる暗殺業界のエリートである。深山家も国内では有数の暗殺一家とはいえ、ゾルディックに比べれば弱小もいいところ。とても釣り合うとは思えない家柄同士、なぜ父がいけると思ったのかきつく問いただしたい。
電話で聞けるだけ聞いたところによれば、ゾルディック家の長男が二十歳になったから、母親が嫁になりたい女はいないかとコミュニティで声をかけたとか。A自身は暗殺を副業としているから、そんな話は知るよしもなかった。それが災いした。
暗殺一家の長女にも関わらず、家業を副業扱いするのにもわけがある。一年前に同業者が起こした事件がきっかけで暗殺に嫌気がさしたのが理由なのだが、これは語ると長きにわたるのでここでは省くとしよう。とにかくAは、十八になると同時に一旦殺しの世界からは身を退き、特技を活かして小料理屋を開いた。美人若女将が作る料理は腕前もあってたちまち評判になり、それだけで生計を立てるのも不可能ではなかったが、両親の必死の説得と金入りのよさに負けて、仕方なく暗殺も副業として始めた。そんな経緯がある。
殺しに嫌悪こそなくとも、あまり乗り気ではない仕事を生業としている家への嫁入り。考えるだけでも頭が痛くなるし、加えてAにはひっそりと想う人があった。あれはそう、ちょうど店を始めたばかりのころ──
──
なんだかたくさん閲覧して頂いていると思ったら、ランキングに入っていたんですね。評価、コメントありがとうございます。精進します。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
