２０話 ページ20
「い、い、イルミ様？ どうしてこちらに？」
立ちこめていた殺意はどこへやら、いきなり現れた思い人にAの声が裏返る。さっと姿勢を正して情けなく詰まった声で聞くと、イルミは何かを確かめるかのように店内を見渡した。
「オレも来る気はなかったんだけどさ、母さんが『女の子は荷物が多いんだから手伝ってあげなさい！』って」
「そんな、わざわざジャポンまで来て頂くほどでは……」
「キミ、結構嘘が下手だね。安心してよ、車持ってきたから、軽く引っ越しくらいの荷物は運べるよ」
いきなりのことにくらくらとめまいがした。イルミが今ここにいるということは、Aがパドキアを発ってからそれを追うようにして飛行船で辺境の地ジャポンまで手間をかけて訪れてくれたことになる。しかも、母親の指図とは言えAをおもんばかってだ。嬉しいやら申し訳ないやらで赤くなったり青くなったりするAを置いて、イルミは客のようにカウンター席に腰掛けた。あの日、彼が座った席だ。
「……あの、イルミ様……」
「オレ、何食べたっけ」
「え？」
「ここで何注文したっけ」
「ええと……確か、揚げ出し豆腐と唐揚げをお召し上がりになったかと」
「そう、それ」
思い出せなかったことが分かってすっきりしたのか、イルミはそれきり何も話そうとしなかった。ほとんど取り残された気分のAは、とりあえず荷物を増やすことが許されたので、待たせてはいけないだろうと急ぎ改めて荷造りをすることにした。
置いていく予定だったもの達は、ぎりぎりまで迷ったもの以外は店舗スペースにまとめて置いていた。というのも、定期的に業者に頼んで手入れなどをする予定だったからである。居住スペースに入られるのはあまりいい気分ではないし、人の痕跡があるとどうも落ち着かないのでそうする手はずだった。けれども事情が変わったので、Aはイルミの目の前で荷を詰めることになった。
当然、気まずい。イルミから何か話題を提起する気配はなく、じっとAの手元を見つめるばかりだ。仮にも恋をしている人にそうも見られては、緊張して動きがぎこちなくなってしまう。いつも以上に慎重に刃物を新聞紙に包む。視線を向けると否が応でも目が合ってしまうので、ずっと俯いたまま。
追加で購入していたバッグに新しくできた荷物を詰め込み、どうも気疎い無言の時間を何とか終わらせた。色々な意味で心臓が破裂しそうであった。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
