１９話 ページ19
イルミからひどく打算的な了承をもらった日から数えて四日。Aはジャポンの実家で荷造りをしていた。もちろん、ゾルディック家に嫁入りするための品々である。しかしその手は覚束ず、ぼんやりと中空を見つめてははっと覚醒して荷を詰め始めるの繰り返しだ。
見合い中ああは言ったが、まさかあれほどあっさりと結婚できるなどとは微塵も思っていなかったAは、イルミを始めとしてキキョウやシルバにも「本当によろしいのですか」と何度も確認した。イルミはAの顔も出来事も覚えていなかった様子であったし、できすぎた夢か何かでないかと不安になったのは想像に難くない。
三十分にわたる確認作業の末、出現した結果は変わらぬ事実。つまりはゾルディック家への嫁入りの決定であり、Aは狂喜乱舞したくなる気持ちを必死で抑えて今後の予定を決めた。一口に結婚といっても国も違うし、経営している店のこともある。それ相応の準備が必要になる。
元々暗殺で稼いだ金があるので、店は何年閉めていようがさほどの損失はない。ただ、愛顧してくれていた人々への一抹の申し訳なさがあるのみだ。ひとまず一身上の都合による無期限休業という体で案内を張り出し、店にあった食品などの処理を終えて、出発する明日に向けて居住スペースで持って行くものの選別を行っていた。山ほどある大切なもの達を一つ一つ選別するのは心苦しいが、抱えていこうにも限度がある。
開店祝いのパーティのために仕立てた高級着物。珍しい食材を競り落とせたので慌てて購入した専用の包丁。どれも思い出深く、飛行船で三日もかかるほどの距離を隔てるのはいささか勇気が要った。しかし一年越しの恋が叶って嬉しいのは確かであるし、そのためには多少の取捨選択が必要なことくらいAは理解していた。
最低限、お気に入りの料理道具や衣服などを選りすぐって、できた荷物はキャリーバッグ二つ。本当ならこの倍は持って行きたかったが仕方がない。しばしお別れをしなければならないものをそれぞれ丁寧にしまい込んでいると、店舗スペースから物音がした。
戸締まりはしたはずだ。閉店の隙をついた物盗りだろうか。侵入者の存在を感知して一気に警戒レベルが跳ね上がる。胸元に忍ばせてある小刀を着物の上から確認して、Aは足音もなく店舗を覗き、
「あ、いた。よかったー、留守だったらどうしようかと思ったよ」
そこにいた婚約者の姿に、ずるりと足を滑らせた。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
