１７話 ページ17
黙考していたイルミは、店の名前を聞いたことで記憶が蘇ったようだ。とはいえ、思い出したところでイルミにしてみれば何の事件性もない日常の一コマのようなもので、まさかあれで一目惚れされるなどとは欠片も想定していなかった。まして、その店主が今ここに嫁候補として訪れるなど、どれだけの偶然が重なればそんな奇跡が錬成されるのか。
「イルミ様が覚えておられずとも、わたくしにとっては何者にも代えがたい大切な恋なのです。ですので、もしよろしければ、是非わたくしを娶っては頂けないでしょうか。
わたくし、国では一番の力を持つ暗殺一家に生まれましたので、イルミ様のお手を煩わせない程度の技量はございます！ 店を構えられる程度には家事もできますし、イルミ様がお望みでしたら生活の邪魔も致しません。ただお側にいられるだけでよいのです。わたくしは、恋い焦がれた方のお顔を毎日見られるだけで十分なのです」
ですからどうかどうか、お嫌でしたらこの場で殺して下さいましな。
ほとんど閉ざされていた彼女の瞳が、僅かにすうと開く。瞼の隙間に垣間見えたのは、イルミのものとはまた異なる、尋常ならざる覚悟と信念を宿した黒曜石の瞳。ただ一度、それも記憶にとどまらぬほど些細な助けの手を差し伸べてやっただけなのに、こうも人は一心になれるものなのか。イルミは愚か、百戦錬磨のはずのシルバでさえほのかな戦慄を覚えていた。異国の少女の狂気的な恋に、暗殺一筋に生きた彼らが知るよしもない執念に、怖じ気づいたともいえる。
恋を知らぬ男連中が黙り込む中で、ただ一人。キキョウだけがその顔を輝かせて声色も高く沈黙を破った。
「なんて素敵なんでしょう！ 初恋の人と再会できたのね？ まるでおとぎ話のようだわ！ ねえあなた、素敵だと思わない？ イルミもそう思うでしょう？ 彼女、毒にも詳しいし見たところかなり腕の立つようだし、お着物も可愛らしいわ！ それにお店の名前が私と一緒だなんて、こっちにも運命を感じちゃうわね！」
男達は判断しかねていた。キキョウはすっかりAを気に入ったようだが、彼女達が魂を燃やす恋の形は果たして正常なものなのだろうか、と。
Aの表情は上手く読み取れないし、異国ではこれくらいが常識なのかも知れない。それにしたって思いの質量が大きすぎる気もするが、唯一比較できるキキョウは流星街出身でまともな感性を見込めない。
完全に詰みである。手の出しようがない。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
