１６話 ページ16
「えーと、ミヤマだっけ？ 何で嫁入りしようと思ったの？」
イルミは色恋沙汰にとんと興味がない。キキョウが思わず口の端を引きつらせるほどその口調に甘さはなく、まるで企業面接のような質問だが、Aの乙女心はその程度で傷つくほど柔ではなかった。暗殺業で鍛えたメンタルの強さがここにも反映されているのである。
それはそれとして、まだ冷静さを幾分か残していたAはこの問いにどう答えるべきか思案した。当初の予定では適当をでっち上げてどうにか煙に巻き、お互いギブアンドテイクな関係を築きましょう、と選択肢の折衷案を採ろうとしたのだが、相手がイルミとなれば話は大きく変わってくる。ギブアンドテイク、ましてやお断り？ とんでもない、是が非でも結婚したくてたまらない。この機を逃せば二度と会えないような立場の人だ。
結婚に辿り着くにはどうしたらよいか。一秒にも満たない思考への沈没の末、Aは決めた。
「それを話すには、まず謝罪しなければならないことがあります。どうか聞いて下さらないでしょうか」
嘘をつかないこと。真実だけで、この場を乗り切ることを。
「いいけど。今日はこの後フリーだし」
とことん仕事を第一に動く男だ。そんな冷淡さもAにかかれば「きちんとスケジュール管理ができて仕事にも熱心な素敵な人」に変換されてしまうのだが。
「わたくしは、イルミ様と結婚したくてここに来たわけではありませんでした。父が独断でお見合いに申し込み、たまたまお目に留まったのです。わたくしは、イルミ様が妻を探していることすら存じ上げませんでした。まずはそこを陳謝しなければなりません」
「ふーん。で？ 『でした』ってことは今は違うんでしょ？」
「はい。イルミ様とお会いするその時まではお断りしようかと思っていたのですが、その……わたくし、イルミ様に、一年前に一目惚れしているのです」
恥ずかしそうに両頬を手で覆ったAの衝撃的な発言に、キキョウとシルバに激震が走った。当のイルミは何のことやら思い出せないようで、珍しく眉をひそめて怪訝そうに首をひねっている。
「わたくしが営んでいる店で食い逃げをされて、咄嗟のことに動けなかったわたくしの代わりにイルミ様が犯人を足止めして下さったのです。以来一年、イルミ様のことが頭から離れず……覚えていらっしゃいますか？ ジャポンの京都府、小料理屋『桔梗』という店なのですが」
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
