１５話 ページ15
「お待たせ。その子が？」
「あらイルミったら、仕事の服のまま来て！ ちゃんと正装を用意してあげたでしょう！」
「時間がなくてさー。待たせる方が悪いかなって思って」
キキョウと会話を交わす青年の声と名前を、Aは呆然と記憶に照らし合わせていた。イルミ。イルミ様。結婚したとしたら、もしかしたら「あなた」なんて呼ぶ機会があるのかも知れない。決して毒物の効果だけではない体温の上昇に伴い、Aの白い頬は化粧を施したように真っ赤に染まっていた。
一年前、一目惚れをしたあの日から、Aは夜寝る前のみならず仕込みをしている時ですら件の男性に心奪われることがままあった。一年経った今、髪は伸ばしているのだろうか。身長は男性だからきっと更に大きくなっているだろう。あの特徴的な目元は面影を残して一層深い闇を宿しているに違いない、などなど。
何人も空想の中に意中のあの人を思い描いていた。そして今、帰ってきたイルミの姿を一目見て、Aが創り上げた幾人もの青年像がたった一つに集約した。すなわち、今目の前に立っているイルミ＝ゾルディックその人が、あのとき一目惚れをした男性その人だと確信したのだ。
「初めまして。イルミです……って、母さんから聞いてるか」
「……あ、はい！ お初にお目にかかります、A＝ミヤマと申します。本日はこのような機会を頂き……」
「そうかしこまらなくていいのに」
先ほどとは別の理由で緊張しているAの斜め前にイルミは座った。仕事着のまま来たことといい、今回の見合いにもさほど期待はしていないらしい。一見するだけで見て取れる無関心さにも関わらず、Aはほとんど有頂天と言っても過言ではない気持ちであった。
あれだけ怨嗟を募らせていた父には感謝しかない。まさに運命、なんたる巡り合わせ！ 名前も聞かずに別れてしまった思い人が実は同業者で、しかもその筋のエリートで、その上何も知らない両親達による仲介を経ての再会。恋愛小説も真っ青な展開に、Aはすっかり乙女モードになっていた。カップに視線をやったと思えば、イルミをちらと見て恥ずかしそうに目を背ける。普通の恋する乙女そのものである。
つい先刻まで毒を言い当てるほど聡明で理知的な雰囲気を漂わせていた少女の急変ぶりに、キキョウとシルバは少なからず驚いている。その理由が分からないイルミは、感情を極限まで抑圧したいつもの調子で「それで」と場の空気を動かした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 543人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HUNTER×HUNTER」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
