１３話 ページ13
よくよく注意していなければ分からない程度の勾配がついた薄暗がりの道を歩き通し、ようやく執事が足を止めた。道中にもいくつも扉があったが、今目の前にそびえ立つ扉は一等頑丈そうであり、重要な部屋なのだと一目で察しがつく。
「中で奥様と旦那様がお待ちです。お荷物はお預かりしますので、どうぞお入り下さい」
「案内して頂きありがとうございました。ろくなお礼もできず……」
「これが仕事ですから」
慇懃に頭を下げた執事につられるようにしてAも礼をし、いよいよ来てしまったと強ばった面持ちで扉を叩いた。中から聞こえてきた入室許可の声は、電話越しに聞いたあの上品そうな声である。
「失礼致します」
出国前に叩き込んできたマナー通りに室内に入ると、まずその威圧感に圧倒された。大きなテーブルの奥、ちょうど扉から見て正面にあたる位置に座っている銀髪の男性。一目で彼がゾルディック家の当主なのだと理解した。ただそこに座しているだけにも関わらず、格の違いを実感させられる。
男性から見て右斜め前に座る女性が妻だろう。華々しい真っ白なドレスよりも、目元を覆う包帯とそれに隠された何かの機械の方が印象に残る。両者共に纏うオーラが洗練されており、折角決めた覚悟がすっかりしぼんでしまった。
こうも圧迫感があると、仮にもお見合いだというのに暗殺者としての気持ちの方が強く出てしまう。すなわち、本来ならば関わってはいけない人種だと。
「ようこそいらっしゃいました、ミヤマさん。どうぞ、おかけになって」
「は、はい」
女性がたおやかな指先で向かい合う席を指した。緊張でいささかぎこちない足取りながら、染みついた淑女としての立ち居振る舞いは流麗極まる。それを見て、女性は感心した様子でうっすらと微笑んだ。とはいえ、既に品定めは始まっていると思うとAの心は張り詰め、評価されたなどと自惚れる余裕はないのだが。
「紹介が遅れました。私はキキョウ、こちらが夫のシルバです。よろしくね」
「ミヤマ……いえ、こちらの方式ですと、A＝ミヤマと申します。本日はお招き頂き誠にありがとうございます」
「Aさん。可愛らしいお名前ね。そんなに堅くならなくてもいいのよ、今お茶を持って来させましょう」
「ありがたく頂戴致します」
堅くなるなと無理難題を言う。表面上は何とかよそ行きの笑顔を保ちながら、Aの全身はいつ何があっても動けるようにと緊縛した状態にあった。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
