１話 ページ1
イルミは辟易していた。珍しく疲れを顔に滲ませるほどには、現状にうんざりしていた。
「ねえイルミ、この子なんてどうかしら。有名な武器職人の娘さんですって」
一人楽しげなキキョウの甲高い声を右から左に、ずいっと突き出された写真が無理矢理視界に入ってくる。金髪が特徴的な気の強そうな女が、精一杯のメイクをしてカメラ目線を決めていた。
「あなたももう二十歳なんだから。いい加減にお嫁さんくらい見つけなさいな。あ、この子は？」
お嫁さん。聞き慣れないしほしくもないのに、ここ数日毎日のように聞かされる単語にイルミはため息をついた。
暗殺を生業として早二十年、成人年齢に達したイルミは、それを境にキキョウから執拗に結婚を促されている。イルミ自身、キキョウがまだ十八の時に生まれたものだから、彼女はその経験を元に早く結婚してしまいなさいと飽きるほど忠告する。
純粋に息子が行き遅れてしまわないかという心配もあるのだろうが、実際はゾルディック家の跡継ぎを考えてのことだろうとはイルミとて分からないはずがない。現状最も次期当主として有望な十二歳年下の弟キルアは、幼少期から反抗的でとても素直に家を継ぐとは思えない。そうなれば、現当主たるシルバに次いで稼ぎ頭のイルミに白羽の矢が立つのは当然であって、家を継ぐのならばもちろんゾルディックの血を絶やさぬように努力する必要がある。
しかしそこで、キキョウとシルバの教育方針が災いした。暗殺に感情など必要ないと割り切った育て方をしたせいで、イルミには女性に対する興味関心など一切なくなってしまったのだ。自らが蒔いた種に苦労しているキキョウは、苦肉の策として、ゾルディックの嫁になりたいという勇気ある女性はいないか、と裏社会のコミュニティでかなり大々的に募った。
ゾルディックといえば、その名だけで子どもが震え上がる世界的暗殺一家である。そんな名のある家に嫁ぐのはステータスでしかないため、政治的影響もあってか、キキョウの予想を遙かに超える嫁候補が殺到してしまった。
家具の少ないイルミの部屋のテーブルに、山盛りになった名前も知らない女の写真達。仕事の合間にも「見ておきなさい」と携帯に写真を送られ、いっそ前より結婚に対して嫌悪が芽生えていた。これほど面倒な真似をするくらいなら、適当な女をさらってミルキと交配させた方が楽なのではないだろうか、とまで思った。重症である。
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神崎コノハ(プロフ) - 凄く好きです (2019年7月9日 23時) (
レス) id: b4ffd0544a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - 白ウサギさん» コメントありがとうございます！文が冗長になってしまう癖があるので、お褒め頂きとても嬉しいです。ご期待に添えるよう頑張ります！ (2018年12月16日 23時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - はじめまして！面白くて一気読みしてしまいました。落ち着いていて、すんなりと読むことができる文章、素敵ですね。これからも頑張ってください。続きを楽しみにしています。 (2018年12月15日 13時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき(プロフ) - アオクサさん» コメントありがとうございます！読みにくくはないかといつも不安になりながら投稿しているので、読みやすいという言葉はすごく嬉しいです。アオクサさんもイルミ落ちで書いておられるのですね！応援のお言葉に応えられるよう頑張ります！ (2018年11月14日 14時) (レス) id: e4f486b00d (このIDを非表示/違反報告)
アオクサ - コメント失礼します。ツクールではあまり見られない文体ですが、とても読みやすくスッと入ってきます！私なんかには真似できないです……。夢主さんが愛らしいです。同じイルミ落ちのツクール作品を書いている身としては一番好きです、応援しています。 (2018年11月13日 22時) (レス) id: a5e6fd18d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆづき | 作成日時：2018年8月19日 3時
