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「……救われたと思ったんです。ワン・フォー・オールをろくに使いこなせないで、焦って、落ち込んでいる僕を、励ましてくれたんだって。秘密を知っていることを教えて、そんなに気負わなくても、傍にいるから、きっと力になるからって、教えてくれたんだと思うんです。あのとき、たしかに救われたと思った僕の気持ちが、ただ騙されただけのニセモノだと思いたくないんです。僕は信じてるから。一ノ瀬くんが、本当は悪い人じゃないんだって」
言い終わってから、出久は改めて自分の言葉に思い知らされた。救われた。そうだ。翔が声をかけてきたとき、ワン・フォー・オールのことに言及され混乱する一方で、彼の優しさを染みるように温かく感じたんだった。
ぎりぎり器におさまった力。けれどあまりに強大すぎるその力は、ひとたび使おうとすれば肉体を粉々に破壊してしまう。痛みも、苦しみも、悔しさも、苛立ちも、何一つ慣れることはできない。唯一の相談相手のオールマイトは誰よりも親身になってくれるが、最初から力を扱えていたから出久の抱える問題をすべて理解してくれるわけではない。だから自分で道を切り開いていくしかない。
この力と、この個性と、どう向き合っていけば良いのか。そればかりがずっと脳内で渦を巻いている。早く解決してくれと叫びたててくる。個性を受け継いだことを後悔はしていない。無個性の自分に与えられた恵まれすぎた力だ。ものにしたい。扱えるようになりたい。扱えるようになったその力で、ヒーローになりたい。絶対になりたい。諦めるという選択肢は最初からない。でもどんな強い意思も、痛みや苦しみや悩みを打ち消してくれるわけじゃない。耐えて、耐えて、歯を食いしばって、考えて、考えて、しがみついて、それでもいっこうに進歩はない。
まだ5月に入ったばかりだ。入学して1ヶ月しか経ってないじゃないか。そんな風に考えても焦りや苛立ちは柔らいでくれない。高校生活は3年しかない。1年は12ヶ月しかない。もたもたしている時間なんてあるはずがない。でも出来ない。力を使うたびに身体は壊れ続ける。痛い。苦しい。どうすれば良いのか分からない。突破口。何かのとっかかり。それさえあれば。でも見つからない。それでも諦められない。どうすれば。どうすれば良いんだ!
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作者名:紅玉 | 作成日時:2018年11月13日 22時