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「今からおまえが知ろうとしてることは、一生知らなくても良い、いや、知らない方がいくらか幸せだろうってくらいのとんでもなく胸糞の悪ぃ話だぜ。これを聞いた後、おまえが翔をどんな風に思うかなんて想像に難くねぇ。どうせオールマイトにも余計なことするなって言い含められてんだろ。その忠告を聞かなかったことを、おまえは必ず後悔することになる」
渚の言葉は、岩の間を流れる湧き水のように出久の心の中に染み入ってきた。出久自身も薄々感づいていることだったからかも知れない。
翔が何者なのか。この孤児院がどんな場所なのか。それは聞いて気持ちの良い話ではけしてない。ここまでの道中の出来事や出会った人たちの会話で、それは十分に察しがついている。渚は――このとても年相応とは思えない少年は、その事実を改めて出久に突きつけているのだ。「必ず後悔する」という確信を帯びた言葉を、ナイフのように冷たく出久の首筋に押し当てて覚悟を問うている。今ならまだ引き返せる、と警告している。
「それでも知るか? 知るなら、おまえがそこまでして真実を知りたい理由は何だ」
「ぼく、は……」
発した声は自分でも驚くほど情けなく掠れていた。飲み込んだ唾で喉を潤し、再び口を開くも、言うべき言葉が見つからないことに気づいて愕然とする。翔を追いかけると決めたときはあんなに頭が澄み渡って、迷いもためらいもまったくなかったのに。
出久は今までにもよくこういう突発的な行動を起こして周りを巻き込んだことがある。ヘドロ事件。雄英の入学試験。初めてのヒーロー基礎学の授業。例を挙げればきりがない。けれどいつも起こした行動の浅はかさや危険さを指摘され叱られるだけで、ここまで真剣に、まっすぐに、「なぜ」したのかという理由を問われたことはなかったのだ。
(どうして僕は、一ノ瀬くんのことを知りたいんだ?)
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作者名:紅玉 | 作成日時:2018年11月13日 22時