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記憶の欠片 とおあまりふたつめ ページ13

あの日から学校にも行く気になれなくて、部屋からもほとんど出ない、そんな生活を1週間ほど繰り返す。Aがいなくなってから、僕は抜け殻のように過ごしていた。

そんなある日。

なんとなく、本当になんとなくだけどAの部屋に行こうと思った。

彼女の部屋に行けば、もしかしたらAがいるかもしれない。

"あ、真冬だ!いらっしゃい"

そう言っていつものように僕に笑顔を向けてくれるかもしれない。

そんなありもしないことを想像しながら、久しぶりに家の外に踏み出した。

見上げた空はあの日と同じように、憎らしいほどに青く澄み渡っている。

いつでも遊びに来てねって渡された合鍵を使って、Aの家に入る。

Aの母親は仕事なのか家には誰もいなかった。まぁでも、今日は平日だし当たり前か。

2階にあがってすぐ右手にあるAの部屋のドアの前に立つ。

そしてゆっくりとそのドアを開けた。

ここを開ければAがいつも笑いながら出迎えてくれた。

だけどもう、ここを開けても笑いながら出迎えてくれるAはいない。

そんなことわかっているのに。

わかってはいたのに。

"もしかしたら"なんて、そんな淡い期待を胸にドアを開けても、やっぱり彼女は出迎えてくれなかった。そこでようやく彼女がいなくなってしまったということが現実だと実感できた気がした。

部屋に入って全体を見渡す。シンプルではあるものの、女の子らしさのある部屋だった。

ふと、いつもAが勉強する時に使っていた机の上に何か置かれていることに気が付いた。

何が置かれているのか気になって机に近付いてみると、どうやらそれは手紙のようで、封筒には"相川真冬様へ"と見慣れたAの文字で書かれていた。

「僕宛ての手紙......?」

恐る恐るその封筒を手に取り、中身を取り出す。

封筒の中には2枚の便箋が入っていた。

それは彼女からの最期のメッセージだった。

便箋に書かれた文字は所々滲んでいて、彼女が泣きながら書いてくれたんだと容易に想像がついた。人知れず涙を流した彼女を思うと、その涙を拭ってあげたかったな、なんて。その相手は、もういないのだけれど。

そんなことを考えながら、改めて彼女からの手紙に目を通した。ゆっくり丁寧に、彼女からの言葉を受け止めるように。彼女の思いを取りこぼさないように、1文1文をかみしめるように。

手紙を読み終わるころには、涙が止まらなくなってしまうことなんて思いもしなかったけれど。

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あいろ - 涙が、、、、とってもいい作品でした! (2019年10月13日 8時) (レス) id: 7961ad3a74 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あおい | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/aoihomupe/  
作成日時:2019年7月2日 15時

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