記憶の欠片 ひとつめ ページ2
"人を殺しちゃった......。"
彼女はそう言った。
その信じられない言葉に僕は少し動揺した。
動揺している僕を他所に、呼吸も乱れていて過呼吸になりかけているのに言葉を続けようとする彼女。
そんな彼女の言葉を僕は慌てて遮った。
「A! 落ち着いて、慌てなくていいから! 僕は逃げないから! どこにも行かないから!
だから、まずは呼吸を整えよう?
ほら、ゆっくり息を吸って。次はゆっくり息を吐いて。
慌てなくていいからね。ゆっくりゆっくり」
呼吸の乱れた彼女を落ち着かせるために、背中をさすりながら一緒に深呼吸を繰り返した。
*****
「どう? 落ち着いた?」
「うん、ありがとう真冬」
しばらく深呼吸を続けて落ち着いた彼女にタオルを渡せば、ふわりと僕に笑って見せる。だけどその笑顔はどこかぎこちなかった。
「それで、何があったの?
"人を殺しちゃった"ってどういう事?」
そう尋ねるとタオルを握りしめたまま彼女は俯いてしまう。
そして、しばらくの沈黙の後に"あのね"と今日あった出来事を語り始めた。
「私が殺しちゃったのは、何時も私に意地悪をしてくる隣の席の男の子で。今日の帰りにまた絡まれて、何でかわかんないけど告白されたの。好きな子ほどいじめたくなっちゃうんだって言ってた。でも私は好きじゃなかったから断ったの。
でも、断ったのに......。手を掴まれて"なんでだよ!"って逆ギレされて、怖くて辞めてって言っても辞めてくれなくて。掴まれてた手を振りほどいたら、また掴まれそうになったから突き飛ばしたの。
そしたらちょうど後ろが階段で、バランスを崩してそのまま転がり落ちていって......。打ち所が悪かったんだって」
「そっか......」
Aから聞いた話は、どこか現実味を帯びていなくて......。
「どうしたらいいんだろう...。私、もうここにはいられないよね......?」
「......どうするつもりなの?」
「ここにはもういられないと思うし、どこか遠い場所に行って、そこで私も死んでしまおうかな......」
思い詰めた表情の彼女はそう言った。
Aは頭が良いから、普段ならもっと違う解決策を見つけられるはずなのに、そんな考えが浮かぶほどAは精神的にかなり追い詰められている。
そう思うと僕はいてもたってもいられなかった。
「じゃあさ、僕も一緒に連れて行ってよ」
何が正しいかなんてわからない。でも、きっとこれが最善策だ。
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あいろ - 涙が、、、、とってもいい作品でした! (2019年10月13日 8時) (レス) id: 7961ad3a74 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおい | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/aoihomupe/
作成日時:2019年7月2日 15時