answer IV ページ35
『…っ、はぁ…！』
彼の目が届かない場所まで離れたら、もう足は勝手に走り出していた。
腹が立つくらいに眩しく光っている木々の隙間を通り抜けて、息が苦しくなっても駆け続ける。
そうしてどこかの橋まで来た時、耐えきれなかったらしいヒールがついに折れてしまった。
ズシャッと盛大に石畳へと倒れ込む。
その拍子に、ポケットからペンギンのキーホルダーが道に落ちてしまった。
『あ…！』
カンッと音を立てて跳ねたそれは、欄干の隙間を通って橋から落下する。
慌てて追いかけてももう遅く、額を思いっきり欄干にぶつけた。
それでも、真っ黒な川にキーホルダーがあっけなく吸い込まれるところははっきりと見えた。
膝の力が抜けて、その場にへたり込む。
擦りむいた膝の痛みなんて感じることも出来ない。
無意識に自分の体を抱きしめた。
大丈夫、大丈夫だ。あんなものがなくたって、
忘れない、絶対に忘れない、なにがあっても…！
『お兄ちゃん……っ！』
その名前を呼んでも、もう返ってくる声なんてあるはずもない。
彼の死を知ってから１度も流してなかった涙が地面に零れ落ちた。
覚えてる。あなたの声も、温度も、優しさも、全部全部覚えてる。忘れない。
過去に浸らなくたって、思い出に縋りつかなくたって──あの人が隣にいなくたって。
お兄ちゃんが生きていた証は私の中にある。
前を向いて生きなきゃ。
いつまでも時計を止めてちゃいけない。私が時計を止めたところで、世界は進む。季節は巡る。
あなたがいない日々は、今日も続いていく。
わかってるふりをして逃げ続けて、聞き分けのいいふりをして認めなかった。
キラキラした思い出だけを抱きしめて、耳を塞いだ。
もう終わりにしなきゃ。ゼロくんがいなくても、過去だけを見つめなくても、ちゃんと生きていかなきゃ。
お兄ちゃんに別れを告げる。抱き続けた初恋に終止符を打つ。
どれだけ時間がかかるかわからないけど、もう虚構を見るのはやめにするんだ。
それでもやっぱり。
今日くらい、泣くのを許してくれるだろうか。
『ゼロくん…っ』
さようなら、大好きだよ。
どれだけ時が過ぎても、この恋を忘れることが出来ても、私にとってあなたは誰にも代えられない大切な人だ。
頬を伝い続ける涙は、寒風に晒されても止まってはくれなかった。
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Leil(プロフ) - うわ、久々に小説でガチ泣きした、、、、2人とも一途すぎんか、、、、そしてあんま関係ないけど相変わらず赤井さんかっこいいな。もうだめだ、読み終わったときのよく分からん喪失感がやばい。読むのが止まりませんでした。これからも頑張ってください！応援してます (2021年8月3日 18時) (
レス) id: 36e4ed7dad (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ゆりあさん» うわーーーん私の方こそ泣きますもったいないお言葉こんなにたくさんありがとうございます！！この感動を文字にできる語彙力がないのがすごく悔しいです…！最後まで読んでくださって素敵なご感想までくださって本当にありがとうございました！！ (2020年3月29日 14時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりあ(プロフ) - 体の水分が全て涙として出ていくぐらい泣きました。コメディもあるのに、メロドラマっぽさもあり、きゅんもあり、貪るように読ませていただきました！これからも応援しています！頑張って下さい。 (2020年3月27日 9時) (レス) id: 45a22d77c5 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - まゆさん» ありがとうございます！！最後のところはすごく悩みながら書いた記憶があるのでそう言って頂けてとても嬉しいです…！最後まで読んでくださってありがとうございました！ (2020年1月27日 19時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 面白かったです^_^最後のシーン、すごく感動しました！涙腺崩壊しました！良い作品ですね！これからも、頑張って下さい^_^ (2020年1月18日 0時) (レス) id: 161c6e3e4c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：立夏
| 作成日時：2018年11月11日 21時
