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病室のドアを開ければ、少し冷たい風が頬をなぞった。
窓の方を向いていた彼女が振り返る。
そして俺の顔を見た瞬間、一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべた。
…よく考えたら今こいつ彼氏と別れたばっかなんだよな。人と顔合わせる気分じゃないよな。しかもよりによって俺だし。
心配だったとはいえ南と会った時点で安否は確認できたんだから帰ればよかった。
そう思ってももう遅い。少し躊躇ってから病室の中に入った。
「大丈夫か?」
『はい。明日には退院だそうです。正直今日退院でもいいくらいなんですけど』
そう言って彼女は足をベッドから下ろし、こっちを向いて座り直す。
そして深々と頭を下げた。
『昨夜はしくじってすみませんでした』
「…いや、今回ミスったのはお前じゃない。
俺の方こそそっちに向かうのが遅くなって悪かったな」
歩み寄りながら言えば、彼女は何故か目を丸くする。
少しだけ間を空けて、眉を下げて微笑んだ。
『やっぱり助けてくれたのはあなただったんですね。ありがとうございました』
「………うん、まぁ、無事ならよかった」
…なんか微妙に調子狂うな。こいつこんなに素直だったか?
再会してからは俺に対して笑うとかほとんどしなかったくせに。
近頃の彼女からは鋭い視線しか向けられてなかった気がするのに。
なんとなく居た堪れなくて、というかもう話すこともなくて、黙って目を逸らす。
…帰るか。
長居する理由もないし、さっさと踵を返した。
「明日まで休んでいいから。無理するなよ」
『はい、わざわざありがとうございました』
その言葉を背にドアを開ける。
しかし、足を踏み出そうとした瞬間、ふと気になっていたことが頭をよぎった。…あ、そうだ。
けれど、それを口にする前に彼女が『あっ』と声を上げた。
『そういえば降谷さん、あの時…』
「え?」
振り返れば、彼女は口を開いて、そこでピタリと止まる。
結局続きは放たれず、曖昧な濁しだけが返ってきた。
『……いえ、なんでもないです』
「…あ、そ」
出しかけた手を引っ込めた彼女を見て、俺の方も面と向かって聞くことじゃないなと思い直し、言いかけた言葉を飲み込む。
──あの時俺の名前を呼んだかなんて、本人に聞くようなことじゃない。
素直になってくださいね、なんて南の声が頭の中で響く。
それを無視してドアを閉めた。
…素直になんてなったところでどうにもならないんだから、それならそんなことしない方がましだ。
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立夏(プロフ) - 明里香さん» わ〜!ほんとですね!ありがとうございます!!直しておきました!! (2019年1月22日 0時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 43話に誤字がありました。「聞こえ気がした」ではなく、「聞こえた気がした」です。 (2019年1月21日 23時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - でねぼらさん» ありがとうございます!可愛く書けたらなと思っていたので嬉しいです!! (2019年1月7日 0時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
でねぼら(プロフ) - 夢主可愛い降谷可愛い (2019年1月7日 0時) (レス) id: eac5f4ad2f (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - レッド・アイさん» わぁぁ3回も!?ありがとうございます…!!ほんと元カップルっていう距離感の微妙な関係が大好きで…ストライク決められて嬉しいです!!更新頑張ります!! (2019年1月6日 12時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年12月24日 21時