降谷さんが狂犬と付き合い始めたらしい。【降谷零/安室透】

39話 ▽シルバーメモリー ページ41

喫茶マープル。

探偵の名がついた米花町の喫茶店。

私の潜入先である。

っていっても本当に小さな案件だし、降谷さんが私のことを思って回してくれた仕事だ。


別にこのカフェ自体になにかあるわけではない。

問題なのはここの常連客の方。

というわけで、ターゲットと仲良くなって情報を引き出して、カフェの仕事も公安の仕事も精一杯やってきた。


そんな喫茶店で、今日も元気にコーヒーを入れている時だった。

カランと軽やかな鈴の音が鳴って、『いらっしゃいませ！』と言いながら扉の方へ向かう。


来店したのは私と同い年くらいに見える１人の男性。

…初めて来る人かな。

そう思いながら席へ案内しようと駆け寄った。


と、次の瞬間だった。

その男性が私の顔を見て目を見開いたのだ。

そしてはっきりと、その名前を口にした。



｢A…！？｣

『…へ？』


…え、なんでこの人、私の名前を知ってるの。

少なくとも私はこの男性を知らない。忘れてる可能性は…ないとは言いきれないけど、でも記憶にない。

ていうか、彼の驚き方が尋常じゃない。大丈夫かな、ドライアイになりそう。

まるでありえないものを見るかのような…そう、それこそ幽霊のような…


……ん？幽霊？

何かが頭の中で引っかかる。

男性はやがて大きくしていた瞳を戻し、自嘲気味に笑った。


｢はは、まさか…Aは15年前に死んだってのに…｣

『…え』


…ちょっと待って。

まさかもしかしてひょっとして…この人の言うAって、犬飼Aじゃなくて清水Aの方なんじゃ…！？

清水Aは私の本当の名前。15年前に川に流されて死んだことになっている。彼の発言とも合う。


｢すみません、あなたが昔の知り合いにとても似てらしたもので…｣

そう言った男性に肩をびくりと揺らし、慌てて頷く。


『い、いえ…』

｢カウンター座ってもいいですか？｣

『へ？あ、どうぞ！』


カウンターに座った彼の横顔をじっと見つめた。

言われてみればどこかで見たことある気がする。

清水Aを知ってるってことは、組織に入る前だ。

…この泣きボクロ、どこかで………


そこで幼き日の思い出が甦る。

男の子の泣き声、ヒリヒリする拳。


あっっっ！！！！！わかった！！

泣き虫悠太！！！

私と喧嘩して負けてわんわん泣いてた奴だ！！！

そのあと子分の如くなにかと私のあとを付いてきてた奴だ！！！


みっともなく大声で泣いていた彼は、なんとも立派な青年になっていた。

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