降谷さんが狂犬と付き合い始めたらしい。【降谷零/安室透】

12話 ▽ブーゲンビリアな夕餉 ページ13

志保side


〈志保ちゃーん！今日ね、久しぶりに定時で上がれたんだよ！！一緒に夜ご飯食べに行こー！！〉

という文面だけでやかましいメールが届いたのは約二時間前。

そのメールの主は今、私の目の前でクリームパスタを頬張っていた。



『美味しいね！これ作れるかなぁ、結構チーズたっぷりだね！』


名前は犬飼A。

組織に拉致られ過酷な環境の中で育ったとは思えないような幸せそうな笑顔で、彼女はそんなことを言う。


出会ったのは少し前。公安警察のあの人の紹介で、だった。その時に彼女の過去もざっくりと聞いた。

今ではすっかり懐かれて、正直こっちも彼女のことは放っておけなくて、頻繁に会う仲になった。

そう、本当に頻繁に。二人だけで出かけているのだ。余計な心配を抱いてしまうほどに。



｢あなた…久しぶりの定時上がりなのに、恋人と過ごさなくてよかったの？｣

『んー？』


そうなのだ。

この人、あの男と付き合ってるはずなのだ。

なのに私にばかり構っている気がするのは気のせいだろうか。

公安のゴリラの嫉妬を買うのは流石に勘弁したいわよ。

私の言葉に、彼女は小さく首を傾げる。



『ふゆやひゃんなりゃ』

｢飲み込んでから喋りなさい｣

『ふぁい』


言う通りにゴクンとパスタを飲み込んでから、再度口を開いた。


『降谷さんならまだお仕事中だよ』

｢あら、飼い主様を置いてきてよかったの？｣

『頭を使う系の仕事しか残ってなかったんだよー。やることないし邪魔だから帰れって言われたの』

｢ふーん…｣


トマトパスタを巻きながら相槌を打つ私に、彼女は不思議そうにパチパチと目を瞬かせる。

そして何かに気づいたように『あっ』と声を上げ、ゆるりと笑った。


『大丈夫だよ！降谷さんとは家も職場も一緒だし、時々２人で出かけたりもしてるから！心配ご無用！』

｢…そう｣


…本人がそう言うのなら大丈夫かしら。

この２人、なんだかんだ仲が良いのは伝わってくるけれど、あんまり恋人らしい話は聞かないのよね。

彼女の方がこんな様子だから正直全く想像がつかない。


｢野暮なことを聞くけれど、あなたたちってどこまで行ってるの？｣


その質問はただの興味本位だった。

こんな子でも恋人の前じゃ乙女らしくなるのかしらと。

彼女はそれを聞いてまた小さく首を傾げ、うーんと唸った。



『この前私の故郷に行ったのが１番遠いかな』

｢……まさか素でその返事をする人がいるとは思わなかったわ｣

13話→←11話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す