降谷さんが狂犬と付き合い始めたらしい。２【降谷零/安室透】

49話 ページ6

私の質問に、赤井秀一は意外そうな顔をする。


｢見ていてわからなかったか？｣

『私の前じゃ普段通りだったと思いますけど…』


そりゃ会話は一気に減ったけど。

今更喋らなくたって戦闘中の連携は全く問題なく取れるから仕事に支障はきたしていない。


えぇ…本当にいつもとそんなに変わりなく見えたんだけどな…

いつも通り澄ましてて、キリッとしてて、しくじったら容赦なく怒ってきて。

私が出てったことなんてダメージゼロみたいに見えたのに。


じわりと胸の中に罪悪感が広がる。

まだ怒ってる。怒ってるっていうか、どうすればいいのかよくわからなくて動けずにいる。

でも、私だってずっとこのままじゃ嫌だし早く元に戻りたい。


『…降谷さんの考えてることがよくわからないんです』

｢……｣


赤井秀一は壁にもたれたまま少し考え込む。

彼の方こそよくわからないだろう。なにも聞かされずにこんなことを言われて。

けれど、彼は律儀に返事をしてくれた。


｢降谷くんは君のことばかり考えていると思うぞ｣

『……えっと？』


しかし私には意味がよく分からず、首をかしげてしまう。


｢降谷くんから君との過去は大体聞いた。彼がその時考えていたこともな｣


彼は言いながら自販機に向かい、財布を開けてお金を滑り込ませる。

…降谷さんと組織の拠点で会っていた時の話だろうか。

その時考えていたことなんて私は聞いたことないけど…


｢彼は君の幸せをなによりも願っている｣

『………』

｢降谷くんのことだから、君にはそんな素振り全く見せてないんだろう？｣


君も鈍感そうだしな、と赤井捜査官は言う。

彼が自販機から缶を取り出すのを、黙って見つめた。

…そうなんだろうか。

そんなこと、降谷さんの口から聞いたことはない。


でも。

心当たりがないわけじゃない。

彼は。降谷さんは。

私が嬉しいことがあって笑うと、必ず目を細めて笑ってくれるのだ。

別に降谷さんになにかあったわけじゃなくても。

私が嬉しかっただけでも。

私が笑うと、降谷さんも決まって幸せそうにしてくれる。

まるで私の幸せが自分の幸せだと言わんばかりに。




その笑顔が急に頭に浮かんで、ぶわっと顔に熱が集まった。

え…え？降谷さんって、そこまで私のこと考えてくれてたの？

だって、じゃあもしかして、あのセリフもそれで…？

急にグルグルと目を回し出した私に、赤井秀一は小さく笑う。


｢頑張れよ、わんこ｣


そう言ってコーヒーを私に投げた。

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