降谷さんが狂犬を飼い始めたらしい。２【降谷零/安室透】

48.柚葉色 ページ8

もしもシャトーが望んでこの組織にいるのではないとしたら、こちら側に引き込めるかもしれない。

そう思わずにはいられなかったが、しかし今すぐにそうするには危険すぎる。

だっていくらなんでもうまくいきすぎだろう。

これがトラップの可能性だって十分にある。

シャトーをこっちの味方に付けるとしても、もっと時間をかけなければ。

うーん…でもこの前変な空気にしてしまったし、もしかしたらもう来てくれないかも…



｢おはよーお兄さん！今日も暑いね！｣


しかしそんな心配もどこ吹く風。

あれから１週間後、いつもより少し間を空けてシャトーはひょこっと塀から顔を出した。

まるでなにごともなかったかのように、普段通りのテンションで飛び降りてくる。

暑い暑いと騒ぐ彼女は、やっぱりぶかぶかの長袖パーカー。



｢そんなに暑いならもっと薄着にすればいいのでは…？｣

｢あはは、それもそうだね！でもこういうのしか持ってないんだよねぇ｣


この気温だとお面だって暑そうだ。

顔と体型を隠そうと思ったら自然とそういう格好になるのだろうけど、見てるこっちが暑い。



｢こんな中スーツで歩いてる人もしんどそうだよねえ。
そういえばお兄さんって普段なにしてお金稼いでるの？お兄さんもサラリーマン？スーツ来て歩く？｣

｢僕は私立探偵ですよ｣

｢えぇ！？うそ、探偵さん！？そうだったの！？｣


めちゃくちゃ驚かれた。

そんなに意外だったか…まぁ確かに本職は違うけど。

へぇ〜と声を漏らしたシャトーは、まじまじと俺を見つめる。



｢探偵さんか〜！初めて会ったよ｣

｢そうなんですか？｣

｢うん、すごいねぇ。殺人事件解いたりするの？｣

｢え、いや僕はあんまりそんなことはしませんけど…｣

｢えー、そうなの？｣


少し残念そうにされた。

そんな風にされても殺人事件を鮮やかに解き明かすような探偵なんてごく一握りだろ…

普通もっと地味な仕事ばかりだ、浮気調査とか。



｢でもいいねー、楽しそう｣

｢シャトーは将来やってみたい仕事とかないんですか？｣

｢んんー、そうだねぇ｣


俺のなにげない質問に、シャトーは首を捻る。

そういえばこの子、学校とか行かないのだろうか。

…いや、もしかしたらそんなことができるような状況ではないのかもしれない。

｢うーん｣としばらく唸っていたシャトーは、少ししてから顔を上げ、恥ずかしそうに小さな声で口にした。



｢警察官…とか？｣

｢……え？｣

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