降谷さんが狂犬を飼い始めたらしい。２【降谷零/安室透】

43.青碧色 ページ3

｢お兄さん、とっても綺麗な目をしているね｣


狐なのか猫なのか犬なのかよくわからないお面。

雑に切られた短めの黒髪。

ぶかぶかのパーカー。

小さな体躯。


声からして、恐らく女の子。

中学生くらいだろうか。

なんでこんなところにこんな小さい子が…


いや、とりあえず返事をしなければ。

俺はなるべく警戒を隠しながら、ニッコリと笑みを貼り付けた。



｢あぁ、この目ですか？実はハーフでして…｣

｢ううん。もちろんその色も素敵だけど、そういうことじゃないよ｣


少女の表情は見えない。

それでも向こうは全くこちらを警戒している様子はない。

彼女は近づけた顔を引かずに続ける。



｢あんまりここじゃ見られない目だね。
曲がったことは絶対許さないってくらい、まっすぐな瞳。
お兄さん、すごく正義感が強そう｣


背筋が、凍った。

だってまるで俺がNOCだとわかっているかのような言い方だ。

嘘だ。そんなわけない。まだ下っ端だし、疑われるようなことはなにもしてない。

きっとこの少女だって適当に言ってる。


それでも図星すぎて、崩れそうになったポーカーフェイスを必死に保った。

大丈夫だ。気取られるな。

そう言い聞かせて薄く笑う。



｢はは、まさか。そうだったらここにはいませんよ｣

｢うーん、それもそうだね？
お兄さん、変わってるね｣


変わってるのはお前の方だ。

ていうか本当に何者なんだこの子は。


少女はようやく顔を引き、俺から離れた。

そして側にあったベンチに座る。



｢お兄さん、名前は？｣

｢…安室透です｣

｢ふふ、教えてくれるんだね。随分警戒してるのに｣


バレてたらしい。

警戒を隠してた意味はなかったようだ。

小さく息をついて、彼女に１歩近づいた。

この子の名前くらいは聞かなければ。


｢あなたは？｣

俺の声に、彼女は顔を上げる。

そして躊躇なくその名を口にした。


｢シャトーだよ｣


シャトー…？

１度頭の中で反芻して、ハッとする。

シャトーって、まさか…


｢コードネーム…！？｣

｢ん？うん、そうだね｣


なんでもなさそうに頷く少女。

嘘だろ、こんなに早くコードネーム持ちと話せる機会がくるなんて。

目の前の小さな少女がコードネームを持っているだなんてにわかに信じ難いが、本当ならこんなチャンスはない。

シャトーなんて名前は初めて聞いたけど、なんとしてでも近づかなければ。

この時、俺はそんな風に思っていたのだった。

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