降谷さんが狂犬を飼い始めたらしい。２【降谷零/安室透】

64.金春色 ページ25

｢そんなことより…お前、俺に言うことあるだろ｣


俺の言葉に、Aは動きを止めて真面目な顔になる。

そして体を起こして、ベッドの上にちょこんと正座し、頭を下げた。



『ごめんなさい』

｢………｣

『たくさん迷惑かけて、怪我まで負わせてしまって…本当にすみま……むぐっ』


そんなAの頬を、無理やり掴んで潰した。

困惑気味に見上げられる。

こっちを向いた瞳がパチパチと瞬いた。



『…ふりゅやひゃん？』

｢ちょっと腹たった｣

『え、ごめんなひゃ……いひゃいいひゃい！！』


懲りずに謝ろうとする姿に更に腹が立って、手に力を込める。

左手をペチペチ叩かれる。

それを数十秒続けたところで、ようやく手を離した。

いたた…と頬を抑えるAに、ため息混じりに言う。



｢お前、俺が告白したこと忘れてるだろ｣

『へっ？』


素っ頓狂な声と共にぶわっと頬が赤くなるのが見えた。

急にうろうろと視線が彷徨いだす。


『べ、別に忘れてなんか…』

｢嘘つけ｣

『ま、まぁ…色々ありすぎてちょっと記憶から抜け落ちてた部分は…
……あぁそうだった私の方も最期だと思ってとんでもないこと言ったんだった…』


ほら見ろやっぱり忘れてたろ。

顔を覆った手は真っ赤になった耳までは隠し切れていない。

その手を外させて、かわりに俺の手をAの頬に添えた。



｢忘れてるならもう１回言ってやってもいいんだぞ｣

『えぇ！？いやあのえっと…』

｢でもその前に、聞いておかなければならないことがある｣

『へ…』


逸らされていた目が合う。

頬の赤みが少し引いた。

揺れる瞳の奥を眺めながら、静かに聞いた。



｢まだ死のうと思ってるか？｣


綺麗な目が大きく見開かれる。

窓から入り込んだ風が、小さく前髪を揺らす。

見つめ合ったまま、しばらく時が経った。

やがてAは、緩く笑って言った。



『せっかく降谷さんに助けて頂いた命です。
もう無駄にしようとは思ってません』

｢……そうか｣


ほっと息をついて頬から手を離す。

しかし、そこにAは『でも』と付け足した。

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