55.紫苑色 ページ15
『え!降谷さんすごい!あれだけで場所わかるなんて!』
「アホ。喋ってないで早く行くぞ。あとで説教だからな」
『うえっ…はぁい』
入り口で待っていたAと二人で中に入って廊下を走る。
使ってないボロビルの割に人が出入りしたあとがある。
足跡では追えそうにないな…
警戒しながら最上階まで来たところで、イヤホンから声が聞こえてきた。
「降谷さん」
流れてきたのは風見の声。
続けられた報告を聞き、足を止める。
通信を切って小さく息を吐き、前にいるAに声をかけた。
「A、止まれ」
『はい?』
Aは言われた通りに立ち止まって振り返る。
「教祖なら裏口から出てきたところを捕まえたらしい。もう探す必要はない」
『え!?うそ!』
大仰にびっくりしてみせた彼女に、1歩近づいた。
Aは『裏口なんてあったのかぁ』なんて言いながらまた俺に背を向けて歩き出す。
それを追わず、揺れる彼女の背中に告げた。
「この建物の中に組織の残党どもが潜んでるのはわかってる」
ピタリとAの足が止まった。
背を向けられているから顔は見えない。
それでも気にせずに続ける。
「公安が俺の合図1つでいつでも突入できる状態にある。言っておくが今日来ていた倍の人数はいる」
Aは動かない。
振り向きもせず、じっと俺の話を聞いている。
「お互い正体がバレたんだ。
いい加減腹を割って話をしよう。
───シャトー」
あの時と変わらない小さな後ろ姿は、まだ無反応なまま。
「…いや、清水A」
あの日教えてもらえなかった本当の名前。
もうこの世には存在しないはずの名前。
ようやく彼女が少しだけ俯くのが見えた。
そして、小さく肩を揺らした。
『ふふっ』
静まり返った広い部屋に、楽しげな笑い声が響く。
振り返った彼女の瞳は細められていて、唇は弧を描いていて。
あの時のお面はもうないはずなのに、なにを思っているのか全く読めない。
彼女は軽々とした動作で俺の目の前に来て、あの日と同じように顔を近づけた。
『お兄さん、とっても綺麗な目をしているね』
俺とシャトーだけが知る最初の言葉。
それを口にして、彼女はまたクスッと笑った。
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立夏(プロフ) - あかね。さん» 素敵なお言葉になんてお返しすればいいのかわからないくらい今すごい泣きそうになってます、本当にありがとうございます!実は私も当作品が1番気に入ってまして、今でも楽しんでくださる方がいるなんてとっても嬉しいです!長い間お付き合いありがとうございます!! (2020年4月23日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
あかね。(プロフ) - 何回目か分かりませんが、また読み直してしまいました。立夏さんのお話ほんと好きで、中でも狂犬が1番好きで、犬飼ちゃんと降谷さんがやっと掴んだ幸せに毎回涙します。素敵な作品をいつもありがとうございます! (2020年4月22日 13時) (レス) id: 639a2702b7 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - いるかさん» わぁぁ完結して随分立っているのに見つけてくださってありがとうございます…!本当に嬉しいです!最後まで読んで下さってありがとうございました!! (2019年4月25日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
いるか(プロフ) - 素敵すぎる小説すぎて涙が止まりませんでした。これからも、応援してます(´;Д;`) (2019年4月24日 16時) (レス) id: 8c81b6610f (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ウツボカズラさん» 伏線褒めてもらえるなんて嬉しいです…!どちらも夢が叶ったハッピーエンドを無事お届け出来て安心しております笑 最後まで本当にありがとうございました!!これからも頑張ります! (2018年8月11日 1時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年8月2日 19時