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粗方の手当を終えたAは、『ちゃんと病院行ってくださいね』ときつく言って救急箱を片付ける。

こんなのどこで覚えたのかと思ったが、この子の知識量は中学生とは思えないものだしこれくらいは知っていてもおかしくないだろう。

俺の前に戻ってきて、一息つくように床に座ったAは、躊躇いがちに口を開いた。


『もしかして、こんな傷も珍しいことではないんですか?』

「………」


否定の言葉はすぐには出てこなかった。

そんな俺の反応に、Aの顔が複雑そうに歪む。

また怒られるのかと思ったが、しかし続いた言葉は酷く揺れていた。


『…なんで、そこまで出来るんですか』

「…え?」


俯いた彼女の表情は読めない。

膝の上の手がキュッと握られた。


『いつも寝不足だし、こうやって怪我もする。大変なことばかりでしょう。
どうしてそこまで戦えるんですか。赤の他人のために』

「……」

『私はあなたに会うまで、こんな仕事をしてる人がいるなんて知りもしませんでした。
あなたが守ってくれた国で生きているのにそれを知らなかった。感謝をすることもなかった。
平和であることを当たり前と捉えて暮らしていました。
私はあなたに出会って知れたけど、国民の大半は今日もなにも知らずに生きています』


どこかに弱さを感じる声に、黙って彼女の前髪をよける。

きつい言い回しをしているのは彼女の方なのに、Aは何故か泣きそうな顔をしていた。

それに少し笑って、頭を撫でた。


「いいよ、それで」

『……』

「俺が守りたいから守ってるんだ。そのために戦ってるんだ。
俺の仕事のことなんて誰も知らなくていい。
平和を当たり前にするために俺達がいる」


Aの顔がさらに歪んで、彼女は湿った声で言う。


『…わかんないですよ、降谷さんのこと。
初めて会った日からこの3年間ずっと見てきたのに』


俺の手にAの手が重ねられる。雨の音はいつのまにか止んでいた。

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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時

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